第21話 闇よりの声その2
それから10分程経ってから京子に頼まれて購買部へミルクティーを買いに行った佳澄が教室に戻ってきた。
「……はい。これ。」
佳澄は京子の席に歩み寄って買ってきた紙パックのミルクティーと預かった京子の財布を京子に手渡す。
「あら。どうもありがとう!………………あれ?」
ミルクティーと自分の財布を受け取ってから佳澄に礼を言って財布の中身を確認していた京子が険しい顔で佳澄を睨みつけて言った。
「ちょっと佳澄ちゃん!お札が一枚足りないんだけど!もしかしてあなた私の財布から盗んだんじゃないでしょうね?」
「……えっっっ!?私そんなことしてないよ!!」
突然の展開にアタフタしながら佳澄が弁明する。
京子の周りにいたクラスメート達も京子の言葉にまるで犯人は佳澄だと言わんばかりに佳澄を睨み付けている。
「ち、違うっっ!!私、そんな泥棒みたいなことなんてしてないっっっ!!京子ちゃんの勘違いなんじゃないの!?」
佳澄が必死にそう言うと京子の周りにいた茶髪を立たせたヤンキーの男子が冷たい視線でこう言い放った。
「あ~あ~!!
自分のやったことを認めずに他人のせいにするなんてお前、マジサイテーだなっっ!!」
「ち、違うっ!!私じゃないっっ!!」
そう言って佳澄が自分の席に座っている私にすがるような視線を送る。
佳澄の視線につられて京子の周りのクラスメート達が私をジッと見つめた。……無言の圧力をかけながら。
思わず私は佳澄とクラスメート達の視線から顔をそらして窓の向こうを見た。
「…………………っっ!!………うっ、うっ、うっ、うぅ~~……。」
私にも見捨てられたと思ったのだろう、佳澄がその場にへたりこんで嗚咽を漏らしながら泣き始める。
「……お前っっ!!ちゃんと京子ちゃんに金返せよなっっ!!」
先程のヤンキー男子が泣いている佳澄にそう怒鳴った。
「………うっ、うっ、うっ、うっっ………。」
……本当は私も佳澄の側に寄っていって京子達に言い返してやれれば良かったのだろうけど、内気な私にはとてもそんな勇気など湧く筈もなく。
ごめん!ごめん、佳澄!と心の中で何度も佳澄に謝りながら自分の机に突っ伏して何も見えないように自分の殻に閉じ籠っているのが精々だった。
……そうして佳澄は結局昼休み中床にへたり込んだまま泣き続けていた。
翌日。
私はその日の朝の登校時一応佳澄を誘ったのだけど佳澄は昨日のことで私に不信感を持ってしまったのだろう、家から出てきてくれなかった。
仕方なく一人ぼっちで登校して席についてホームルームが始まるのを待っていたら、佳澄がおずおずと教室の扉を開けて中に入ってきた。
昨日佳澄に怒鳴り付けたヤンキー男子が
「おいっ!ちゃんと京子ちゃんからパクった金持ってきたんだろうな?」
と佳澄を睨み付けながら言う。
「……………………………………。」
佳澄はその言葉がまるで聞こえていないかのように自分の席へと向かった。
「おいお前っ!!無視してんじゃねぇよっ!!」
ヤンキー男子が佳澄の肩を後ろから鷲掴みにしてその耳元でまた怒鳴り付ける。
「……ヒッッ!!」
か細い悲鳴をあげて佳澄がその場に蹲った。
そのやり取りを京子とその取り巻き達がジッと眺めている。
「オラ!財布出せっ!出せよっっ!!」
「……イヤ!イヤァァ!!」
ヤンキー男子が嫌がる佳澄の鞄から財布を取り上げると京子の元に走っていって言った。
「京子ちゃん。昨日はいくら足らなかったの?」
「そうねぇ。確か一万円札が一枚、だったかしら……。」
「ほうほう。……んっ?しけてやがんなっ!3千円しか入ってないじゃんかっっ!!
おいっお前!!明日ちゃんと足りない分持ってこいよ!!利子込みで一万円なっ!!」
ヤンキー男子が佳澄を睨み付けながらそう怒鳴った。
可哀想に佳澄は自分の席に突っ伏して号泣している。
……ごめん!佳澄!あなたの役に立てない私を許して!
私は佳澄の泣き声が聞こえないように両手で耳を塞いでキツく目を閉じた。
……そしてその日から佳澄に対する京子と取り巻き達の恐喝とイジメが、始まってしまった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます