第11話 DVD一家

「いただきま~~す!!」


今日も朝の食卓に元気な声が木霊する。


「良也、昨日のサッカーの試合は本当に大活躍だったな!」


パパが弟の良也に声をかける。


「ありがとう!パパとママが応援に来てくれたから僕頑張っちゃった!!」


良也が元気良くそう答える。


「フフフ。まあ、良也ったら。」


ママが目を細めて愛しい息子に笑いかける。


……私達、磯貝家には普通とは少し違った特徴がある。

家族全員、おでこの辺りにDVDのトレーのようなものが内蔵されているのだ。


小学生の時、良くからかわれたものだ。


「や~~い!!磯貝のばっけもの~~!!

口の悪い同級生がそう言っていたのを今もはっきり覚えている。


……やがて、中学、高校と進むにつれそういう心ないことを言う人間は減っていった。

だけど、今もゼロじゃない。そういう下らない奴は無視することにしている。


自分自身、不思議に思ってママに聞いてみたことがあった。


「何で私たちにだけこんな変なものがついているの?」


「……ママも昔はこれのせいでいじめられたものよ。」


ママは自分のおでこのトレー口を指差しながら笑って言った。


「……でもね?これのお陰でパパとママは知り合って結婚できたのよ。」


そう言うママの顔はどこか誇らしげに見えた。



………そんなある日の事。


「ただいま~。」

自宅の玄関をくぐり私が学校から帰ると、

リビングで良也が床にへたりこんで泣きべそをかいている。


「……どうしたの?良也。」


そう声をかけると。


「…うわぁぁ~~~ん!!」

と、良也は近寄った私の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。


それから落ち着いた良也から話を聞くと、どうやら学校の同級生たちから頭のトレーの事をからかわれて、無理やりCDやらDVDやらを次々に出し入れされたらしい。


「僕悔しいよ……。」


泣きらした顔で良也が呟く。


「お姉ちゃんが敵を取ってあげる!!」


そして、私は次の日学校をサボって良也の通う小学校に足を向けた。


……丁度、一限目が終わってチャイムが鳴った。

私は良也のいる4年3組のドアの陰からそっと中の様子をうかがった。


「や~いや~い!ばっけものっ~~!!」

と、同じクラスの男の子達が良也の机の回りを取り囲んではやし立てている。


「こらっっ!!あんた達ーー!!」


と、私がドアを開けて怒鳴り付けると、


「わぁ~~~!!磯貝、姉ちゃんも化物でやんの~~!!」


と、良也をからかっていた5人の男の子達が私目掛けて走り寄り、私の髪や服を引っ張り出した。


「こら!!やめなさい!!あんた達っ!!」


と、叱るも一向に止めようとはしない。


その内、中の一人が、

「い~いこと考えたっ!!」と、叫んでランドセルから数枚のCDやDVDを取り出し、その内の一枚をおでこのボタンを押してトレーを開くと、私の頭のトレーの中に突っ込んだ。


「…………っっ!!」


何とも言えない気持ち悪さが私を襲った。


「おええぇぇっっ!!」

たまらず私はその場で戻してしまう。


「いいぞーー!!もっとやれーー!!」


周りの男の子達が囃し立てると、

「よーーっし!!」

と、言ってその子はさらにディスクを入れ替えて頭のトレーに押し込んだ。


「やめて!!」

と、私は叫ぶけど全然止めようとはしない。


「…………ブブブブブブブブブブッッ!!

ガチャンッッ!!防衛モードに移行しました。目標確認。」


………何これ?私の口から勝手に言葉がれ出す。


…………カッッッ!!!

瞬間、4年3組の教室中にまばゆい光が放出された。その光は良也の姉の目から出ている。


……やがて、姉の瞳の光は1分と経たずに消えた。


教室がしんっと静まり返っている。


良也のクラスメート達は皆一様にドンヨリとした眼で虚空こくうを見つめ、開きっぱなしの口からはよだれこぼれ落ちている。


「……えっ?」

さっきまでクラスメートにいじめられていた良也が声を漏らす。


「………一体何が起こったの?」



後日。

あれから良也のクラスメート達は呆けたようになってしまい、今も元に戻っていないらしい。


あの日学校からそのまま帰ってきた私と良也がたまたま家にいたパパとママに事の顛末てんまつを話すと、


「………こうなってしまってはしょうがないな。」と、パパは呟いて何やらママとコソコソ話を始めた。


…………そして、私達一家は人知れず街を後にした。










 

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