第90話 悪女、白状する

「それは、一体……?」


 祭りでの俺とシアが出会ったことを知らない明宮も、俺の驚きに何かを感じ取って問いかける。


「ダメよ、二人とも」

「へ?」

「え?」

「映画の途中なんだから、集中しないと」


 それだけ言うと、また画面に視線を戻してしまう。

 画面に集中しようと最初に言ったのは俺自身だ。


「…………」


 無言で画面を見つめるシアは終わるまでは話しそうにない。

 俺も映画の続きに目を向ける。

 だが、シアの言葉が気になり、集中はまったくできなかった。


   ◇


「はー……面白かったね」


 スタッフロールの終わりまでしっかり見てから、シアがひと息。


「すれ違っていた二人が最後には出会える。うん、やっぱり素敵な話」

「……そうだな」


 状況は違うが、俺と明宮もすれ違っていた。

 そのことを指しているのか、それともまったく関係ないただの感想なのか。


「日辻くん、シアさん……祭りでお面とは、どういうことですか?」


 こらえきれなくなったのか、明宮がシアに問いかける。


「そのままの意味ね。去年のお祭りで私とヒツジくん、会ってるの」

「シアはお面をかぶってたし、その時会ったのが初めてだから、今日の今日までシアがあの子だなんて思ってなかった」

「そうだったんですか……どうしてシアさんは、お面を……?」

「そりゃ、ヒツジくんに顔を見せたくなかったからよ」

「え? つまり日辻さんに会おうとしていた、ということですか」

「そうね。だからヒツジくんが一人になるのを見計らって声を掛けたの」

「どうして?」


 明宮も疑問を漏らすしかない。


「それって俺に『明宮の秘密』を伝えるため、なのか?」

「私の秘密……?」


 明宮が俺を見る。


「シアは言ってたんだ。『明宮の秘密を知りたくないか』って」

「そうね」

「でも、私……シアさんとはまったく面識ありませんし……」

「うん、ヒツジくんとも明宮さんとも、あの頃は面識ないかな」

「それじゃ、どうして私の秘密だなんて」

「……ま、こればっかりは私が謝るしかないんだけど」


 シアが言いにくそうに肩を落とす。

 即答の多い彼女にしては珍しい。


「ヒツジくんと明宮さん、去年、非常口のところでお昼食べてたでしょ」

「ふぇっ!?」

「な、なんでそれ、知ってるんだ?」


 あそこで食事をしていたことは誰にも言ってない。

 思わず明宮に視線を向ければ、素早く首を横に振られる。

 その上、驚いた顔をしているのだから、明宮も誰にも話していないのだろう。


「近くの空き教室にいたのよ。たまたまね」

「そ、そんなたまたま……?」

「そう言われても、一人になりたい時は、あの辺りがひと気がないから……そう考えて空き教室にいた、としか言いようがないよ」

「……まぁ」


 同じ理由で校舎の隅の非常口にいたのだから、明宮もうなずく。


「そこで、二人の話を聞いてたの」

「そ、そうなのか……」

「結果的に盗み聞きだったわけだから、そこはごめんなさい」


 ペコリと頭を下げられる。

 怒るよりも納得が先に立つ。


「ってことは、俺たちのことはそこで知ったのか?」

「うん、ヒツジって名前も特徴的だから、覚えちゃうよね。二人ってすごく仲良さそうだったから、二人の話を聞くの、けっこう好きだったの」


 懐かしむようにシアが目を細める。

 そこには、俺達をうらやむような響きがある。


 ――考えてみれば。

 どうしてシアは空き教室にいたんだ?


 『一人になりたい時』


 そうしたいと思うようなことがあった……?


「私の話はともかく」


 シアが話を続ける。

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