第46話 こういうの、好きでしょ?

 そう。デートなんだからいつもとは違う方が良い。


「それじゃ、行こう」


 決意をそのまま行動へ。シアの手を取り歩き始める。


「わわっ!?」


 引っぱられたシアが、すぐに早足で俺の横に並んでくる。


「び、びっくりしたぁ……」

「まずかった?」

「まさかっ! 珍しくヒツジくんが大胆なことしてくれたから、驚いただけ」


 ぎゅっと握り返してくる。

 ひんやりとしたシアの手が、じんわりとあたたかくなる。


「どうして手を引いてくれたの?」

「……デート、だからかな」

「ふふふ、そうだよね。デートだもん、嬉しい♪」


 シアはいつも自分の気持ち、あっさり言う。

 その方が俺が嬉しいと、きっとわかっている。


「手、暑かったりしない?」

「ポカポカしててちょうどいい。ヒツジくんは?」

「俺も同じ」

「そっかぁ……それじゃ――」


 『腕を組む』というより、まさしく腕と身体で、俺の腕に抱きついてくる。


「おわっ」


 ワンピースの胸元に腕が思い切りあたる。


 ――ふよんっ。


 問答無用で感じる柔らかさ。

 一気に体が熱くなるほどの圧倒的な存在感。

 部屋着のときにも見たとおり、シアは思った以上にスタイルがいい。

 それを物理的にも感じる。


「ふふふー♪」


 シアを思わず見ると、すぐ近くにシアの顔がある。

 『キス』のときより遠いが、十分近い距離。


「ちょ、ちょっと……シア?」

「これだと、ポカポカ?」


 抱きつく腕に力を込めながらシアが誘うように問いかける。

 そうすれば、シアの胸元はワンピース越しでもわかるほど、俺の腕に沿って『ぎゅうぅっ』と形を変える。


 シアは、エッチなことに対する知識がアンバランスだ。

 だからこそ、時に俺の想像を軽々超え、頬を熱くさせるほど大胆になる。


「シア、当たって――」

「ええ、もちろん、当ててるの。男の子ってこういうの好きなんでしょ」

「好きというか……」


 いや、好きです。

 こっちだって正常な男子なのだから、腕に全神経が集中してしまくっている。


「ああでも、ヒツジくんは恥じらいのある子の方が好きなんだっけ? うーん……」


 腕に抱きつかれたまま考え込まれる。

 これだけ近くだと柔らかな感触だけじゃなく、ふんわりとシアのいい匂いも伝わってくる。爽やかで甘いりんごのような香り。いつもと違うから、なにか付けてるんだろう。

 それが『デート』であることをますます自覚させる。


「照れちゃうけど、ヒツジくんとふれあうの、嬉しいからこのままで……いい?」


 はにかみながら、シアが囁くと、吐息が耳元をくすぐる。

 背中がゾクゾクするのに、身体は熱くなるばかり。


「えへへ……♪」


 いつもの恥ずかしがる演技なんだろうか?

 そうに違いないと思うのに、イタズラっぽくにも照れたようにも見える笑顔。

 そして、伝わってくるシアの熱と香りが思考をごちゃごちゃにする。


「……いい」

「よかった♪」


 声を出すというより、首を縦に揺らすだけしかできなかった。

 でも、シアは弾んだ笑みを見せてくれる。

 こちらが大胆に攻めたつもりだったのに、何倍もぶっとんだ返しをされてしまった。


 本当に、この『恋人』は……。


「映画、時間大丈夫?」

「え、あっ……大丈夫」


 映画館に向かって歩き出す。


「映画、楽しみ~っ、アクションだから目が離せないよね」


 今週の夜は、現在放映中に近いジャンルの映画を二人で観た。

 結果、アクションシーンで大盛りあがりし、その夜は横になった後も語り合ったアクション映画の続きを、ぜひ見に行こうということになった。


「アクションだから、ちょっとデートらしくはないかもね」

「でも続き、気になるし」

「そうそう、今日は何より迫力のアクションシーンを楽しみましょ!」


 言いながらも、シアは俺の腕に抱きついたまま。

 アクション映画だとデートらしくないかもしれない。そう思っていた。

 でも、こんなのどんな映画だってドキドキするに決まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る