狼に育てられた少年に育てられた狼

カタオニクス

その後のその後の物語

〇雪山、山麓(早朝)

雪に埋め尽くされた山麓、緩やかに降る雪。

太狼、一匹で歩いている。

しばらく歩いたところで小さな洞窟を見つける。

太狼、周りを見渡し、洞窟に入る。


〇雪山、洞窟内部(早朝)

太狼、洞窟の奥でゆっくり腰を下ろす。

太狼「…疲れたな…」

と、静かに目を閉じる。


〇雪山、山麓(昼)

緩やかだった雪が少し強くなっている。

狼子、何かを探しながら雪の中を歩いている。

狼子「…もう…! どこ行ったのよ…!」


〇雪山、洞窟(昼)

太狼、うずくまり、眠っている。

洞窟の外では風が強くなってきている。

太狼、風の音で目を覚まし、ゆっくり立ち上がる。

太狼「…やっぱり吹雪いてきたか…」

太狼、外の様子を伺いに洞窟の出口の方へ向かう。


〇雪山、山麓(昼)

狼子、吹雪の中をゆっくり歩いている。

狼子「…さすがにこの吹雪の中を探すのは無理ね…匂いも辿れないし…」

狼子、洞窟を見つける。

狼子「…ここで吹雪がやむのを待とう…アイツ、無事でしょうね…」

狼子、洞窟をのぞき込むと中から太狼が顔を出し、驚く。

狼子「太狼!!」

太狼、同様に驚き、洞窟の奥へ走っていく。

狼子、太狼を追う。


〇雪山、洞窟(昼)

太狼、洞窟の壁を背に、追ってきた狼子の事を威嚇する。

狼子、ゆっくり近づき問いかける。

狼子「…こんなとこにいた…」

太狼、キバをむき出し、ジッとにらみつけている。

狼子「…もう群れには戻らないつもり?」

太狼「…」

狼子、ゆっくり近づき、太狼の正面に座る。

太狼、相変わらず何も話さず狼子を威嚇している。

狼子「…何それ? そうやってせっかく迎えに来た私の事も邪険にして…」

太狼「…」

狼子「…それがほんとの一匹オオカミってやつ?」

太狼「…」

狼子「…笑いなさいよ、私今うまい事言ったでしょ。」

太狼「…うまくねぇよ、別に。」

狼子「…あっそ…とにかく吹雪がやむまでここから出られないんだから…」

狼子、太狼の隣に座りながら、

狼子「もう少しここにいるよ。」

太狼、威嚇をやめ、うずくまる。

太狼「…勝手にしろ…」


〇雪山、洞窟(時間経過)

狼子、洞窟の出口を見つめ、外の様子をうかがっている。

太狼、狼子をチラチラ気にしている。

狼子、太狼の視線に気づき、

狼子「…なに?」

太狼「…いや…」

狼子「…だいぶ冷えてきたわね…」

太狼、前足同士をこすり合わせる。

狼子「…そういうとこだと思うよ。」

太狼「…何がだよ。」

狼子「普通オオカミは寒いからって前足をこすり合わせたりなんかしないよ。」

太狼「…寒いときはこうするんだよ…」

狼子「…ふぅん…ニンゲンみたい…」

太狼「…そんな事ないだろ…(ハァ~)」

と、前足に息を吹きかける。

狼子「それよ!」


〇雪山、洞窟(夕)

外では相変わらず吹雪が続いている。

太狼、気になっていたことを尋ねる。

太狼「…お前…俺を迎えに来たのか…?」

狼子「そうよ?」

太狼「なんで、俺なんか…。群れの中でも嫌われ者だぞ。」

狼子「…そうね、ニンゲンに育てられたオオカミなんて馴染めるわけないもの。」

太狼「…じゃあお前もほっとけばよかっただろ…俺みたいな見ず知らずのオオカミなんて。」

狼子「…」

太狼「…無理なんだよ、群れでの生活なんて。」

狼子「…一匹じゃエサも取れないくせに。」

太狼「…」

狼子「…シカの捕まえ方教えてあげようか?」

太狼「別にいいよ。」

狼子「まず…」

太狼「いや、いいって言ってるだろ。」

狼子「シカを見つけて…」

太狼「見つけるところからかよ、絶対長くなるだろ」

狼子「首元にこう!」

太狼「もう仕留めたよ。全然長くなかった」

狼子「…からの…こう!」

太狼「もういいって。」


〇雪山、洞窟(夜)

狼子「…あんた、親の事…覚えてる?」

太狼「…ニンゲンの?」

狼子「ううん。あんたを産んだ、お母さんの事…」

太狼「…ほとんど覚えてない…」

狼子「名前も…?」

太狼「…別に、お前に関係ないだろ…」

狼子「私ももうお父さんもお母さんもいないから…」

太狼「そう…かよ…。それでも俺には関係ない。」

狼子「物心ついた時にはお母さんはもういなくて、お父さんは私が2歳の時に怪我で死んじゃって…。」

太狼「…」

狼子「お父さんがまだ生きてた頃、言ってたんだ。お母さんは私が生まれてすぐに群れを離れたんだって。」

太狼「…」

狼子「…私のお母さんは…ニンゲンの子供を育てていたから群れを追い出されたんだって。」

太狼「…!」

狼子「…私のお母さんの名前は…『トミ子』」

太狼「!」

狼子「…お願い…!教えて!あなたのお母さんの名前…。」

太狼「…俺の母親の名前も…『トミ子』だった…。」

狼子「…!やっぱり…!」

太狼「…そんな話…聞いてなかった…母親は俺が生まれてすぐ死んだんだ…。」

狼子「そう…。でも…私は一匹じゃなかった…群れがあっても家族はいないってずっと思ってた…けど…」

太狼「…家族…?」

狼子「私には…あなたがいる…!」

太狼「…姉…さん?」

狼子「…今の群れで暮らしていけないんなら私と一緒に暮らそう? オオカミの狩猟は単体よりも複数の方が格段に成功率が上がるの!」

太狼「俺に…姉さんがいたなんて…」

狼子「まずは二匹で新しい縄張りを探して、そこで群れを形成しよ! エサの取り方もたくさん教えてあげる!」

狼子、立ち上がり、洞窟の出口へ向かう。

太狼、慌てて追う。

太狼「…待って…!」


〇雪山、山麓(夜)

吹雪はすっかりやんでいる。

風もなく、空には大きな満月が出ている。

狼子、洞窟から飛び出す。

狼子「…わ! 満月!」

太狼、遅れて洞窟から出てくる。

太狼「…わぁ…」

狼子、岩の上に駆け上り、遠吠え。

狼子「アオオォォォォーーーーン!!」

太狼、狼子の様子を見つめている。

狼子、太狼に

狼子「…ほら、こっちに来て。やってごらん!」

太狼、狼子に駆け寄り、恐る恐る

太狼「…ア、アオォォーーン!」

満月を背景に、二匹のオオカミ___


(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狼に育てられた少年に育てられた狼 カタオニクス @furukikkk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ