第56話・尋問or拷問

 バージルが目を覚ますと、どこかの地下室でパイプ椅子に縛り付けられていた。


「……この国でもこういう事をする連中がいるのか? お前ら何者だ?」


 目の前にいる凪と亜由美にバージルはそういうと、凪は「俺はメリッサの義理の兄だ。あいつの血縁者は母親しかいなかったと聞いていたが……」四角い箱型の被り物を取り出してバージルの頭にかぶせる。


 いきなり得体の知れない物をつけられたバージルは「おい待てなんだこれは」と動揺すると、凪が「じゃあ、質問! あなたは本当にメリッサの身内?」と質問をした。


「本人にも言ったが、家系上では俺はアイツの甥にあたる」


 バージルはそう答えると、赤の丸が描かれたプレートが「ピンポーン!」という音とともに頭頂部に上がる。


「……なるほど、噓発見器か」


 理解したバージルに「魔道具だから少し特殊だけどな」と凪は言って、バージルに釘を刺す。


「質問には正直に答えろ……家系上ではアンタはアイツの身内だが、俺にとってアイツはたったひとりの弟だ。もし、何か弟に関して良からぬことを考えているってなら……」


 凪はそう言いながら工具箱を取り出して「俺は容赦しない」と言って、工具を取り出す。


「鈴羅家の魔祓い師……噂では昔ながらの魔女狩りの一族と聞いてはいたが……」


 霧雨市以外でも自身の家のことを知っている人間がいたことに、凪は「知ってんのか? 俺の家のこと」と意外に思うと、バージルが「どんな鉄腸漢も屈する拷問のプロだと聞いた」とその恐ろしさを口に出すと、亜由美がこんなことを尋ねた。


「最後に拷問した奴ってどれだけ持ったん?」


 凪は、最後に拷問した人間がどうなったかを今でも覚えていた。


「去年の夏休みに拷問した魔法使いで3分は持ったな。指2本へし折ることになったけど……」


バージル(うおい……コイツマジでそんなことをしてんのかよ)


 凪は「さあて♪」と、どこか楽しそうな声で尋問を始めた。

尋問が始まって30分後……凪はある程度の事情を知ることができた。


「へぇ、メリーの実父がもう老い先短いから遺産分割しようって話が出て、血縁者のことを改めて調べていたらメリーがそのアレックス・メイソンって人の息子であったことが判明したと……」


 凪は少し納得すると、バージルは困った顔で「そのせいで結婚60年目の祖母がブチギレてメイソン家は大変なことになっているんだけどな」と言って、現在の状況を話す。


「祖父は祖母にシバかれている最中でこっちに来れなくてな。仕事の関係もあって俺が彼に遺産相続と祖父の元に来るか? の旨を伝えに来たんだ」


 バージルは噓発見器をつけられていたこともあって、凪に全てを話した。


「で? その仕事については俺らに話してもいい話か?」


 凪の質問に対してバージルは「話すと言ったら?」と凪に聞くと「知り合いの甘味処で茶と茶菓子を奢る」と答える。


「この街には知人がいないからな……協力者はいたほうがいい」


バージルはそう言って、凪に仕事のことを話すことにした。


 そんなこともあって凪は、メリッサと亜由美も連れて噓発見器を外したバージルと一緒に風見鶏に来た。


「なんだ? 休憩で来たのか?」


 凪は店に入って早々に、入り口近くの席にいた紫のウィンドブレーカー姿の幽麻にそう尋ねると、幽麻は「先輩に仕事取られちゃってさ。今日は休みになった」と答える。


 タイミングも重なったこともあり、幽麻も交じってバージルの仕事の話を聞くことにした。


「俺は仕事でこの男を探してこの街に来た」


 そこに映っていたのはひとりの男だった。背広姿でどこにでもいそうなサラリーマンのような20代前半の男だが、その写真を見た時……店内にとてつもない殺気が充満し、凪たちの席に置かれている食器に亀裂が入り、ビリビリとした空気が湯呑のお茶が波紋を打つ。


 殺気の出所は、凪でも亜由美でもメリッサでもなく。ましてや写真を取り出したバージルでもなく……偶然、その場で合流した幽麻から放たれていた。


「……知っている男か?」


 幽麻の反応を見て、バージルはそう尋ねると、幽麻はハッと我に返り、殺気が消えて「すまない……少し取り乱した」と謝罪する。


(あんな殺気を放つ幽麻さんを初めて見た……いったい何者なんだろう?)


 メリッサは心の中で疑問を持っていると、突然店の出入り口の引き戸が勢いよくガラッと外から開かれて、偶然近くを通りかかって幽麻の殺気に驚いたのか? 私服姿の玲奈が「霞さん無事ですか!?」と刀を構えて店内に入ってくるが、店内には凪たちしかおらず、霞はカウンターにおり「幽麻が殺気立っただけだよ」と無事を伝えた。


 玲奈は抜きかけていた刀をパチンと納刀し「何があったんだ?」と尋ねながら凪たちのいる席に近づく。


「少し嫌なことを思い出しただけさ……」


 幽麻はそう言って、自分のお代を置いて席を立つと、情報が欲しかったバージルが声をかけようとしたが、凪がスッとバージルの右肩を右手で掴んだ。


 バージルは凪のほうを向くと、凪は首を横に振って幽麻をそっとしておくようにと無言で伝えた。


 目の前にいる手がかりが離れるのは嫌だったが、今生の別れになるわけではないため、行かせることにした。


 幽麻は「ああ、そうだ」と何かを思い出したように、出入り口で一度立ち止まって凪にこう言った。


「凪……もし、ヨイチがソイツの情報が手に入れたら……真っ先に俺に伝えるように言ってくれ」


 不思議なことにその時だけは声のトーンも穏やかで殺気もなく。逆に何か企んでいるのではないかと感じるほどだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る