第55話・バランタイン

 新学期が始まり、始業式が終わってすぐのこと・・・・・・

凪は異能風紀委員の会議室の前で玲奈を待っていた。

 欠伸をしながら待っていると、会議室の引き戸がガラッと音を立てて開いて、中からいつも通り猫の仮面をつけた玲奈が出てきて「待たせたな」と言ってきた。


「夏美の処置・・・・・・どうするって?」


凪の質問に対して、玲奈は会議室で出た結論を凪に話す。


「古代種の中では稀有な異能力ということもあって、鈴羅ファミリーの所属には賛成だそうだ。場合によっては師団にとって旨味が強いらしい」


 それを聞いた凪は「まあ、旨味があるかどうかは夏美次第になるけどな」と言うと、玲奈も懸念していることを口に出す。


「まあ、喘息持ちだしな。お前の訓練がどういうものかは知らないが、ついていけるといいんだが・・・・・・」


 一方、メリッサは校門で凪が来るのを待っていると、後ろからいきなり声をかけられた。


「メリッサ・鈴羅だな?」


 メリッサはうん? と思いながら振り返ると、自身より頭一つ背の高い男がいた。

黒のロングコートを纏った身長195cm以上はありそうな大男で黒髪だが、瞳の色がメリッサと同じ青色だ。顔立ちからハーフだろうと推察できる。


「あの・・・・・・どちら様ですか?」


 自身より体格の男に威圧感を感じながら、メリッサは男に尋ねると、男は自己紹介を始める。


「俺の名前は大門司 バージル、お前の父親……アレックス・メイソンの孫だ。家系上では、俺はあんたの甥ってことになる」


 とんでもないことを聞いたメリッサは、思わず「え?」と思考が停止する。


「メリッサ・鈴羅 旧姓 メリッサ・バランタイン・・・・・・母親の名前はセレッサ・バランタイン、留学生としてこの街の大学に通っていた」


 すると、周りの生徒たちの視線に気づいたバージルは「場所を変えよう」と言い出してメリッサの右手をつかんで、その場から連れ出そうとした。


 まだ情報の整理がついていないメリッサは「え? あっちょっ」っと戸惑っていると、後ろから声をかける人物が現れた。


「ウチの知り合いに何の用や?」


 バージルに声をかけたのは亜由美だった。こんな公衆の面前であるものの、バージルがやっていることは敵対行動も同然だ。


 まだ異能力を使う気配すら無いのにも関わらず、周りにいた野次馬が引いていく波のように3人から離れる。


 近づけば確実に巻き込まれる……そんな野次馬の様子を察して、バージルは事を荒立てたくないのか「この人とふたりきりで話をしたいだけだ」と言って、メリッサを掴む手を離そうとしない。


 目の前にいるバージルが敵ではないのかと思った亜由美は「身元もわからん奴とふたりきりにするわけにもあかへんしな」と疑いの目を向けると、バージルは自身のことを秘匿したいのか「悪いが部外者に身元を教えるわけにはいかないんだ」と言うと、亜由美が動いた。


「そういうの……信頼ないっていうんやで? 3つ数える間にその手を放せ」


 亜由美はそう言って、メリッサを掴むバージルの右手を左手で掴んだ。

バージルが諦めなければ亜由美は間違いなく右拳でぶん殴るであろう……メリッサも、自身のことを叔父さんと言うバージルが、本当に自分の甥なのかも怪しいこともあって弁護のしようがなかった。


 血の気が多い亜由美は、少し殺気立って「3……2……」とカウントダウンを始める。


 この時、男は判断を誤った……亜由美が異能力を発動し、右手に電流が迸ったその時……


(マズイ……来る!)


 身の危険を感じたバージルが右拳を握りながら「ミョルニール」とつぶやくとゴッと鈍い音がその場に鳴り響いて、亜由美は後ろに大きく仰け反っていた。


「メリッサ・・・・・・メイソン家の血を引く人間は必ずガントレット型の血縁種の力に目覚める。悪魔狩り拳闘士の一族だ」


バージルはメリッサに自身が魔祓い師であることを告げる。


 気づけばバージルの両手に金色のガントレットを装着していることにメリッサは気づき、戦慄した。


 だが……メリッサは戦慄したのは、この男が行ったことと……大きく後ろに仰け反って、倒れていない亜由美だった。


「装填完了……唸れ! エネルギーのビート!」


 亜由美はそう言うと、バージルはハッと亜由美に自身の攻撃が効いていなかったことに気づいたが、既に遅かった。


 バージルは左腕を上げ、ガントレットで亜由美の頭突きをガードしたが、とてつもない膂力に「このパワーは!?」と驚きながら、校門の塀にぶつかって破片をまき散らしながら塀にめり込む。


 辺りは騒然なるが、生徒たちは亜由美たちだと分かるなり、異能風紀委員を呼びに行こうとする者もいれば、関わりたくないのかその場から足早に立ち去る者もいた。


「うわぁ……今の何倍にして返したんですか?」


 メリッサは、塀にめり込んで気絶しているバージルを見ながら亜由美に尋ねると、亜由美はどれ程の威力だったのかを説明した。


「2倍にしただけや……そいつの異能は速いだけやない。まるで落雷や」


 それが2倍+頭突きの威力が乗ってこの様である。


「2倍でこれって……まさか僕と違って雷をガントレットから放てる?」


 メリッサはそんな疑問を口に出すと、亜由美が「ところでこいつは何者なん?」とバージルについて尋ねると、まだバージルが言っていたことが真実がどうかわからなかったメリッサは「えーっと……ですね」と言ってから亜由美にこう言った。


「この人……僕の甥だそうです」


メリッサのとんでもない発言に、亜由美は「はい?」と間の抜けた声を出す。

 

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