第21話・平穏な生活? ねえよ! んなもん!
中間世界から帰った次の日……GWも終わって凪たちはまた学校生活に戻っていた。
昼休みの屋上にて……凪と幽麻と亜由美の3人は屋上の出入り口の扉の隣で輪になって昼食を取りながら談笑している中、玲奈は出入り口の上に座って仮面を上にずらして静かに菓子パンをかじっていると、凪が声をかけてくる。
「玲奈! お前もこっち来いよ!」
しかし、玲奈は「私はお前の監視役だ。あまり馴れ合いはしない」と改めて凪の監視役であることを主張するが、亜由美が「まあ、遠慮しいな!」と電流が迸っている左手で玲奈が、腰を下ろしている出入り口の壁にドンッと掌底を打ち込むと、玲奈は誰もいないはずの背後からドンッと背中を押されたように凪たちの方の空中へ押し出された。
玲奈はいきなり宙に投げ出されたことに「わっと!?」と驚きながらストンと綺麗に着地する。
「で? 何の話やったけ?」
亜由美はそんな風に談笑の話題を玲奈にも教えようと2人に誘導すると幽麻は最初から話した。
「GWの時にバイト先の先輩が墓地で怪しい人影を見たとかって言う話だな」
事件の臭いがした凪は「詳しい時間は解るか?」と尋ねると幽麻は「えっと確か……」と少し間を開けてから答える。
「その日はちょうど俺と同じ時間に終わったから18時くらいか? そんでもって目撃現場の墓地までの距離を能力無しで移動したと考えると……18時45分から19時30分だな。ちなみに場所は猫神様の近くだ」
それを聞いた凪は「住宅街の近くじゃないか! 確かあの辺りは公民館もあっただろう?」と少し驚く。
「まあ、肝試しとかするような場所でも無いからな。先入観が見せた幻だと最初は思ったけど、それを昨日も見てるって話だからな」
幽麻はそう付け足すと、凪は怪訝な顔でこう言った。
「にしてもそんな時間帯に墓地に来る奴はちびっ子であっても碌な奴じゃないと相場が決まっている。あとで目撃者の先輩に今日会えるか連絡とって貰っていいか?」
凪はそう言うと亜由美が横槍をいれる。
「現地も調べるん? 魔術痕跡が出るかも解らへんのやぞ?」
そう、凪は魔術の痕跡を調べることが出来る上に地縛霊との会話も出来るが、痕跡と話が出来る地縛霊が居なければ意味が無いのだ。
「今回は場所が場所だからな。墓地だと地縛霊が多すぎて探知機(13話のゼンマイ仕掛けの懐中時計)が役に立たないからな」
それには亜由美も経験があるらしく「解るわぁ、ウチもEMF作った時にそう言った場所で使ったら回路がショートしてもうたからな」と経験談を語る。
「まあ、場所的にも出てくるのは黒魔術に手を出している奴なのは明らかだけどな」
玲奈は魔術には疎いこともあり「黒魔術は違法なのか?」と疑問を口に出すと凪は説明する。
「いや、特段違法とされているわけじゃない。そもそも魔術は無害なものだ。その根源に善悪も無いからな」
ここで饒舌に話をしていた凪の顔が急に険しくなり、こう言った。
「ただ……黒魔術は使い方を誤れば大きな災害になる。例を挙げるとGWに出た暴走した異形だな。ああいう風に制御が出来ずに自分の意思とは正反対の動きをしてしまう」
それを聞いた玲奈はGWに見た繭の異形を思い出すがそれ以上に印象深いのが目の前にいることに気づく。
(コイツは自分の存在がそれ以上なことに気づいてないのか謙虚なのか解らんな)
玲奈は心の中でそう思っているとキーンコーンカーンコーンと予鈴の鐘が鳴った。
そして、HRが終わって放課後……
「で? 結局お前もついて来ると……」
校門を出ながら凪は自身の後ろにいる玲奈にそう言うと「まあ、監視役だからな」と返される。玲奈の左にいる幽麻も「街に戻って早々に苦労が絶えないな」と同情される。
「畜生め! 俺は静かで平和な学校生活を謳歌したいのに!」
凪は頭を抱えて空に向かってそう吠えるのであった。
そんな凪に対し、玲奈は右肩に背負っている竹刀ケースの中身の重さを感じながらこんなことを聞いた。
「それはそうと、前に貰ったこの刀だが……本当にいいのか? 私の故郷では4桁の額はゆうに超える代物だぞ?」
玲奈は凪にそう尋ねるが凪は「別にいいんだよ。鈴羅家は友と認めた奴にはソイツにあった魔道具を送る風習がある俺はそれに習っているだけだ」と答えた。
「友と認めてくれるのは嬉しいが、それでもこんな高価なものは……」
玲奈は反論しようとしたが幽麻がそれを制する。
「諦めろ玲奈、鈴羅家は親戚も含めて変わり者が多いことで有名だし、何より魔祓い師の中でかなり魔術に精通しているから魔道具はどれも一級品だ。俺も凪からいくつか魔道具を貰ってるし、亜由美も研究資料としていくつも持ってる」
そんな話をしていると、幽麻のバイト先である「異能自転車便・ヴァリアントメッセンジャー」についた。
一方、その頃……霧雨市郊外の峠にて……
隣町と繋がる街同士の道でその場所には刑場跡地があることで知られており、不吉な場所とも呼ばれているため、民家も少ない。
そんな刑場跡地に白と緑の市松模様の和服に身を包み、右耳タブに直径1cmの紫色の水晶を埋め込んだ金の輪っかのイヤリングをつけた20代後半の黒髪スポーツ刈りの男がいた。
辛うじて電球が生きている街灯に照らされた刑場跡地で男は右手で紫色の結晶のような直径2cmほどの石ころのような物を落ち葉が積もった地面にばら撒いた。
「罪人の血肉を喰らいし土よ。その怨みを力に変え我に従え!」
男は静かな声でそう言うと、地面がボコボコと隆起し、男はその様子を見て「フハハハハハ!」と高笑いした。
そして、お目当ての目撃情報を手に入れた凪たちは「異能自転車便・ヴァリアントメッセンジャー」を出て家路に着いた。
「さあて……とりあえず目撃情報はこれぐらいか。にしても市松模様の和服姿ねえ……俺の知り合いで和服姿って言うと師匠を抜いたらノブさんとイチさんぐらいしかいないな。あとはマダム軍団か?」
凪はそう言いながら目撃情報をメモしながら歩いていると、買い物袋を提げたAKと鉢合った。
「マスター! お迎えに上がりました」
初めて会った時と変わらず、黒髪ショートヘアで首に紅のアフガンストールを巻いて深緑のマルチカム迷彩の野戦服を纏い、赤と黒のチェック側の丈の短いプリーツスカートと2分丈の黒スパッツを穿いている黒の革靴を履いた無機質な顔をしている。
自分達より幼い顔立ちということもあってとてもゴーレムと呼べるような物ではなかった。
凪はAKが食材で膨らんだ買い物袋を提げているのを見てあることを思い出し「そっか……今日の炊事はお袋だったな」と言うと、AKは表情を変えずというよりはゴーレムだから感情も表情筋も無いからと言うのが正しいのか「はい、今夜は奥方様が料理番ということでお使いを頼まれていました。ちなみにメニューは弟様の好物のハンバーグです」と答える。
(声のトーンと会話内容は普通に楽しそうだが、表情が変わらないとどうも違和感があるな。まあ、常時仮面をつけている私が言えた口ではないが……)
玲奈は凪とAKの会話を見ながらふとそう思う。
3人と1体はそのまま家路につくが、彼らの事を5m離れた所から見ている白と緑の市松模様の和服に身を包み、右耳タブに直径1cmの紫色の水晶を埋め込んだ金の輪っかのイヤリングをつけた20代後半の黒髪スポーツ刈りの男がいた。
「へえ、あのゴーレム……素材として欲しいな」
男の目にはAKが凪たちよりも輝いて見えていた。それは見た目ではなく自分の計画の素材として……
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