第16話・リクルート
翌日、商店街の端にある歓楽街のある一件のBarにて……
ピンクのネオンで「ゲイツ・オブ・ヘル」と描かれた看板が目印のこのBarは会員制になっており、一見さんは入店を拒否されてしまう。
今までそれでも入店した者はいたが……店を出たその日に病院送り! それも精神病院にである!
そんな恐ろしい店の会員になる条件? ハハッ! 嬢ちゃんに坊ちゃん、それは天界か魔界のどちらかにお願いするほかないね。なんせここの会員条件は「異能の力を持つ成人」か「とてつもない力を持つ能力者」だけなんだから……
その「とてつもない力を持つ能力者」である凪は玲奈と一緒にゲイツ・オブ・ヘルに来ていた。
店内は薄暗い照明ビニール製のソファとナイトクラブ風の席とオレンジ色の照明とモダンなカウンターテーブルのカウンター席がある。
凪達はカウンター席に座っていた。凪はミントとスライスレモンと氷水が入ったガラスピッチャーを取ってコップに薄荷水を注ぐ。
「やれやれ……ここに来ることになるとは……てかなんでお前も来るんだよ? 依頼じゃないんだぞ?」
凪は自身の左の席に座っている玲奈にそう尋ねると、玲奈は凛とした態度で答える。
「お前のクランの事情をこの目でしっかり確認しておかなければならないからな。もし新メンバーが入ったとしてもどんな奴なのかを知っておく必要がある」
そう言ってくる玲奈に対して、凪は呆れた顔で「誰が来るかは予想がついてんだよな……」と嫌そうな顔をした。
「えらい不安そうな顔してんな?」
まるで老人のようにしわがれた声で話しかけてきたのは、バーテンの20代前半の女性だった。顔立ちと肌の色は亜由美に似ているが髪は染めてるであろう金髪ショートヘアだ。
「チェンさん……もしウチの新人が物を壊したら自分が直すと言うのだけは前もって言っておきます」
そう、このしわがれ声のバーテンこそこの店の店主であり異能力ランキング3位・戦闘狂の称号を持つ八坂 智絵里ことチェンなのだ。
凪と一緒に店に入る少し前のこと……
「いいか? チェンさんの声で絶対に笑うんじゃねえぞ? もし笑って事になったら殺す気で行け! 相手は俺ですら手足折られてやっと勝てたランキング3位! 最低でも「オーバードライブ」並の一撃をぶち込む勢いで行け!」
ガタガタと震え、顔からダラダラと滝のような冷や汗を顔に流しながらそう言う凪に、玲奈は最早打つ手が思いつかない玲奈は「私にそんな技は無い」と言ってそうなったらもうなるようになれと思った。
そんなことを思い出してからカウンター席で玲奈は仮面をつけているとはいえ、気取られないように振るえながら笑うのを我慢していた。
(顔は綺麗だけど声のギャップがあり過ぎてツボる! こんなの我慢できる奴がいるのか?)
他の給仕の女性が「マスター!」とチェンに声をかけたため、チェンはカウンターから離れた。
チェンが離れたことにより、玲奈はテーブルに突っ伏した。
「……よく耐えたな。チェンさんのことを知らない奴らはワザとあんな声出してると笑ってミンチにされる。抵抗した者もいたが……さすがは戦闘狂の称号を持つ人だ。拳を砕かれても嗤って襲い掛かってくるんだからな……ありゃトラウマもんだ」
1度だけチェンとガチンコバトルをしたことがある凪は当時、砕かれた右拳を振り上げてウワハハハハハと笑いながらまるではしゃぐ子供のような笑顔で飛びかかってくるチェンの姿を思い出しながら凪はそう言った。
そして、その顔には滝のような冷や汗が流れており「正直言って師匠のシゴキと同等に恐ろしいかもしれない」と呟く。
(あの人の実力もそうだが、修業時代何があったんだよ……)
そんなことを思いながらその場にいると、入り口の方が騒がしくなった。
「ああ……やっぱ来たか……」
騒ぎが聞こえた凪は何かを察知したように頭を抱える。
凪の言葉に玲奈は頭の中に「?」が浮かぶと「グアッ!?」「ギャッ!?」と2人の男の悲鳴が聞こえたかと思うと吼えるような声が聞こえた。
「私をバカにするな! 死にたいのか?」
そう叫ぶ声の主は何と暤だった。初めて会った時と同じ黒のタンクトップと半ズボンで両手に黒いナイフを持っており、喧嘩を吹っ掛けてきたであろう自身より体格のいい参加者が地面に突っ伏していた。
暤はそんな様子を見ていた玲奈に気づくと、スッとその場から消える。
「玲奈さんもクランに加入するんですか!」
消えたと思ったらいつの間にか自身の左の席に座っている暤にそう話しかけられた玲奈はバッとそちらの方を振り向きながら驚いた。
先程のナイフは持っておらず、鞘にしまって携行している様子もない。いったいどこにしまったというのだろうか?
困惑して言葉も出ない玲奈を他所に凪は「一体何しに来たんだよ?」と暤に尋ねる。
「だってバッチャンが「今日のクランマーケットでお兄ちゃんがクラン員募集してる」って言ってたんだもん」
それを聞いた凪は「あのババア今度ワサビ詰めた饅頭差し入れしてやろうか」と額に青筋を浮かせながら呟く。
そして、凪はハアッと溜息をついて暤にこう言った。
「そこまで言うならいいだろう。賀来郷 暤! お前をクラン「鈴羅ファミリー」の一員として正式に入団することをここに認める!」
それを聞いた暤は目を輝かせていると「魔祓い師・日比谷 玲奈! お前が証人だ」といきなり言われた玲奈は驚いた。
「待て、私は「師団」の所属でお前のクラン員じゃないぞ? こう言うのは正式なクラン員が証人ではないといけないと思うのだが……」
そう、玲奈は所属自体は「師団」で「鈴羅ファミリー」には所属していない。
「ならお前も入ればいいだろう? 暤は元々非正規のメンバーで最終的に入団させるつもりだったし、俺のクランに入れば「師団」からのお前に対する評価にも箔が付く」
凪のとんでもない申し出に玲奈と周りにいた者たちが「えええええええええええ!?」と驚きの声を上げる。
「嘘だろ!?」
「クラン創設時から新たな人員を迎えることの無かったあの最強クランが!?」
凪の心の声(まあ驚くよな……てか俺が街にいなかったわけだし)
「あそこって入団の最低条件はランキング10位以内だろ?」
凪の心の声(そんなこと言った覚えありませんが!?)
周りにいる参加者たちがそんな風に騒いでいる中、玲奈は究極の選択を迫られていた。
(どうする? クランに入れば監視がしやすくなるし、信頼を得たことで「師団」への吸収合併へ持ち込むことが出来るかもしれな……)
そう思った玲奈であったが、ここでふとあることに気づく。
(待てよ……コイツは根っからの「師団嫌い」もしかするとクランに入ることで「師団」からの信用に亀裂をいれる気なのでは?)
そんなことを考えていると、凪が「どうするんだ?」と返答を急かしてきたため、玲奈は現状の自分が最も正解だと思える答えを出した。
「いいだろう。この魔祓い師・日比谷 玲奈、今日を持って「鈴羅ファミリー」に入団する」
玲奈の答えはそれだった今では最良な判断だが、後にどうなるかまでは解っていなかった。
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