失格王子の成り上がり冒険譚~出来損ないはいらないと王家を追い出された俺、規格外の『器』で世界最強の冒険者になる~

未来人A

第一章 アウターへ

第1話

「スレイ、貴様みたいな出来損ないは、グラマンド家にはいらない」


 朝っぱらから兄に呼び出されて、眠気をこらえながら書斎に行ったら、いきなり暴言を吐いてきやがった。

 何十回と言われている言葉だが、いまだに言われると腹が立つのは俺が短気だからだろうか。


「わざわざ俺を罵倒するために呼んだんですか? そうとうストレスが溜まってんですかね」


 本当は一発殴ってやりたかったが、罵倒されただけで人をぶん殴るほど、暴力的な人間ではないし、今では実質的にグラマンド家を牛耳っている兄を殴れば、大変なことになるだろうから、嫌味を言うだけで我慢した。


「違う。昨日家臣たちと、出来損ないの貴様を今後どうするか話し合っていた。その結果、追放するべきだと結論が出た」

「は?」


 全く予想していなかったことを言われて、呆気にとられた。


「貴様の行動は昔からグラマンド家としてふさわしくないものだった。まともに学問を修めるつもりはなく、父や私の言うことに歯向かい、さらに平民と過度にふれあい、まるで王族としての自覚がない。何度も治すよう言ってきたが、貴様は一度も態度を改めようとしなかった。もはや処置なしと判断し、追放することになった」


 兄は淡々と説明するが、俺はまだ状況を飲み込めていない。


「あの……話が全く分かんないんですけど、追放ってのはつまり、俺はもうグラマンド家の人間じゃなくなるってことですか?」

「そうだ。ちなみに父の許可も取ってあるから、父に泣きついても無駄だ。これがその書状である」


 机の上に置いてあった書状を見せつけてきた。

 確かに俺を追放することに対して、賛同する内容が書かれている。


「さて、話は以上だ。今すぐ自分の部屋に戻り、城から出ていけ」

「……」


 兄は冷たい口調で言い放つ。


 俺は無言で書斎から出た。



 ――追放。


 ――グラマンド家の人間じゃなくなる。




 それって、つまり……



 ――――俺は冒険者になってもいいってことか?



 マ……マジでか? そんなラッキーなことがあっていいのか?



 諦めかけていた夢が叶いそうになり、俺は喜ぶより、むしろ困惑した。





 俺の生まれたグラマンド家は、このベストーン王国の王家だ。俺スレイ・グラマンドはその三男として生まれた。


 グラマンド家の教育はかなり厳しい。王族は国民の模範となる人物でなければならないという家風で、それはそれで結構なことだと思うが、俺は馴染めなかった。


 好きでもないダンスの練習だとか、難しい勉強だとか、どうでもいいとしか思えない礼儀作法の練習だとか、四歳のころから、毎日毎日それを長時間やらされていた。


 そんな生活に嫌気がさし、五歳の時、一度城から脱走して町に行こうした。


 だが、正確な町の場所なんてわからなくて、森に迷い込んでしまった。


 食糧を取る術など持たないので、数日迷い続け、腹が減って死にそうになった。そんな状況で、俺はとある男と出会う。



 その出会いは、俺にとって一生忘れられないものとなった。



 ボロボロのマントを羽織った、三十歳くらいの男だった。

 名前は聞き逃したから分からない。


 森で迷っていた俺を助けてくれて、飯を食べさせてくれた。顔は少し怖いが優しい男だった。


 事情を尋ねてきたので正直に話した。


 王族と聞いて驚いていたが、それでも男は特に畏まることなく、普通の子供と同じように接してきた。


 家に帰るように言ってきて、俺は嫌だと返答したが、色んな人が心配しているだろうと説得されて、渋々戻ることにした。


 足を怪我していたので、俺は男に背負われて城に戻ることになった。


 その道中、男と交わした会話は今でもはっきりと覚えている。


 ――――なー、おっさんは何をしている人なんだー?


 ――――俺は冒険者だ。


 ――――冒険者って何?


 ――――知らないのか。冒険者ってのは『門』をくぐり『アウター』を旅する者の事だ。


 ――――門? アウター?


 ――――あー、そうか。そこから説明しなきゃなんねーか。数年前このランドス大陸の南側にあるバルツって国の遺跡で、門が発見されたんだ。その門をくぐると、アウターって呼ばれている、この世界とは別の世界に行くことが出来る。


 ――――別の世界?


 ――――そうだ。アウターは俺たちが今いるこの世界とはまるで違う。『魔法』という特殊な力を使う事が出来たり、モンスターって呼ばれている、この世界にはいない生物がいる。この世界では見れない、壮大な景色を見ることも出来る。


 ――――な、何かすげー面白そうなところじゃん。マホウってどんなのなの。使ってみてよ。


 ――――魔法は、この世界にいると使えなくなっちまうんだ。使いたければアウターに行くしかねーな。


 ――――えー……


 ――――不満げだな。代わりにアウターについてもっと詳しく話をしてやろう。


 男はアウターについて、語りに語った。

 空飛ぶ島に行ったこと。

 凄まじい爆発を起こす魔法を習得したこと。

 馬鹿でかいトカゲのモンスター『ドラゴン』を、仲間と一緒に倒したこと。


 未知の光景、未知の力、未知の生物、未知の現象、その全てに心が惹かれた。


 アウターについて男が語るたびに、行ってみたいという欲が増していった。


 ――――俺も冒険者になりたい。アウターに行きたい。


 ――――あー、今のお前には無理だな。アウターは危険な場所で、一度行ったら戻ってくるのが困難なんだ。だから、大人じゃないと入れないって決まりがある。門の前には門番がいて、子供は通して貰えないようになっている。


 ――――そうなんだ……


 ――――それ以前にお前は王子って話だから、行くのは難しいかもしれねーな。


 ――――行く! 大人になったら絶対行く!



 それから王城に到着し、別れの時がやってきた。

 

 別れ際、男は俺に紫色の石を渡してきた。

 子どもの手の平でも握りしめられる程度の大きさの石だ。石の中を覗くと、ぐるぐると何かが渦巻いていた。


 ――――なにこれ?


 ――――これはアウターで取れたものだ。本当はこいつをこっちに持ち帰ってはいけないんだが、こっそり持ってきてたんだ。もしお前がアウターに行くことになったら、これを持ってこい。


 ――――どうして?


 ――――理由はアウターに来れば分かるさ。


 男は石を渡した後、じゃあな、と言い残して、そそくさと立ち去っていった。


 その時、名前を聞いておかなかったことに気づいて、俺は少し後悔した。


 城に戻ると大騒ぎになっており、戻ったら物凄く心配された。俺が冒険者になりたいと言ったら、さらに大騒ぎになった。


 第三王子という立場は、兄二人が早死にすれば王様にならないといけないし、仮に兄二人が健在でも、王族として国に貢献しなければならない。


 そして、門を通りアウターに行った者の八割が、この世界に戻ってこないという。


 そんな場所に王子を行かせるわけにはいかないと、当然のごとく両親、兄弟、家臣一同に猛反対され、何十回と説教され、以降冒険者と口に出すことすら禁じられた。


 見張りもつけられて、脱走することも不可能になった。


 ただ、どこまで禁じられても、冒険者に対するあこがれが消えることはなかった。

 

 面白そうな世界が存在すると知ってからは、王城の生活が以前よりもつまらないと感じるようになった。アウターがどんな場所なのか、想像したりもして、年々いきたいという気持ちは強まっていった。

 

 それと同時に、成長し現実的が見えてきて、冒険者になるなんて、王族として生まれた時点で無理だったのだと、諦めかけていた。


 そんな時に、今回の追放宣告だ。


 なぜ今更追放されることになったのかは分からない。


 兄は慎重な性格の奴だから、万全を喫して兄弟を追い出し、王の地位を盤石なものとしようとしているのかもしれない。

 やる気のない俺なんて放っておいても良いと思うけど、権力者が一番恐れるのは身内だってのは、どっかで聞いたことがある。


 とにかく政治的理由なんて分かんないけど、俺がもう王族じゃなくなったということは理解した。


 よし、今すぐ城から出ちまおう! 


 もたもたしてたら、実は間違いでしたと言われるかもしれん。アウターまで行ったら、間違いだったとしても、もうこっちのもんだろ。


 駆け足で自分の部屋に行き、急いで準備を始めた。



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