死神

麻城すず

 その日、めでたい事に昇進を言い渡された。大して名の通らない大学を二浪一留して卒業した私にはとても叶わないと思っていた管理職への辞令。

 普段呑む事はほとんど無かったが、さすがにその日は祝杯をあげようと初めての居酒屋の暖簾をくぐる。

 カウンターで店員相手に、自分の仕事が認められたこと、その成果のおかげで異例の昇進が決まったのだと酒の勢いに任せてつらつらと自慢した。

 店員にとっては厄介な客だったに違いない。ただでさえ一見の酔っ払いだ。おざなりな相槌も仕方がなかったが、せっかくのめでたい話なんだ、気持ち良く聞いてくれよとつい絡んでしまう。そんな中、一人の男が話し掛けてきた。

「ご機嫌ですねぇ。あやかりたい。よろしければ一緒に飲ませてもらっても宜しいですか?」

 年の頃は私より20歳程も上だろう。もう50近く見えたその男性はそう言って隣の席に腰掛ける。

 知らない人間を相手にするのは好きではなかったが、せっかくの祝い話に対する店員の素っ気無い対応に不満を覚えていた私は、その男と呑む事を承諾した。

 後で後悔することになるとはもちろん考えるはずもない。

 しばらく他愛のない話を肴に飲んだあと、男は「一つ面白い話をお聞かせしましょう」と笑って盃を私のグラスに打ち付けた。

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