いじめられっ子といじめっ子

柊 吉野

第1話

「おい、モノマネしろよ!

「はははは、早くしろよ!」

 体がすくんで、震える。声が出ない。

「あ、え、あの」

「バコッ!」にぶい音が響く。

 僕は毎日のようにいじめられていた。

 いつも一人でいた僕は小学三年生の時からいじめが始まった。はじめの方は無視されたりするだけだった。次第にどんどんエスカレートしていって、ものが隠されるようになり、二年がたって、小学五年生になったときは暴力も振るわれるようになった。

 あいつらは先生の前ではあまりひどいことをしない。だけど先生もなんとなくは勘づいているはずだった。なのに、先生は何も言ってくれなかった。何もしてくれなかった。そんな先生には僕は相談したくなかった。

 親に相談しようと思っても、僕の親はとても仲が悪い。数年前からずっとそんな状態が続いている。そんな雰囲気だし、親には迷惑をかけたくないから、言わなかったし、なんとかバレないようにうまくやっている。

 僕の心はなんとか保てている。中学に上がればいじめもなくなるかもしれない。そんなことだけが僕の希望だった。そしてこんな日がしばらく続くと思っていた。だけどそんなことはなかった。僕の心よりも先に家庭が崩壊した。僕の両親は離婚した。突然それはやってきた。悪い状態であっても数年間やってこれたのだ。これ以上は悪くなることはないと思っていたけど、それは甘かった。そんなときにとうとう僕へのいじめが明るみに出た。僕のことには無関心だと思っていたけど、母はとても怒って、その事に対応してくれた。少しうれしかった。こんなことになるのならもっと早く母に言っておけばよかったと思った。その後、学校が仲立って、保護者同士の話し合いの結果、いじめっ子たちへの厳重注意という話でまとまった。家庭や学校での事情があったので、僕は母方の実家がある遠方へ引越した。

 それは小学六年生の夏のことだった。


 私はどうしようもないことをしてしまった。彼をいじめてしまった。はじめは本当にただふざけてやっていただけなのに。おもしろいと感じてしまって、物を隠したり、悪口を言ったりしてしまった。でも私は暴力を振るえなかった。これだけはしてはいけないような気がした。だけど暴力を横で見て笑っていてそれは暴力を振るっているのとさほど変わらなかった。あの時は体裁ばかり取り繕って

「やめようよ」

の一言が言い出せなかった。でもそんな言い訳はもう意味がない。こんなことになるなんて思ってもいなかった。彼はどんなふうに思っていたのだろうか。彼にもう一度会って、ちゃんと謝りたい。だけど彼はもう行ってしまった。もう二度と会うことはないかもしれないけど、私はそのときを待っている。


 中学に上がった僕はとてもとても荒れた。小学生の頃の僕を知っている人はいない。無理やりなのか自然になのか僕はいや、俺はグレた。目元まで伸ばしていた髪を切り、ファッションにも気をかけ、自分のやりたいことだけをするようになった。引越しして、しばらくの間は母と話すようになっていたが、また話さなくなっていた。この中学三年間、悪いやつらとつるむようになって、ひたすら自由にしていた。単車に乗って、タバコを吸ってたくさん悪いことをした。だけど、いじめだけはしなかった。いや、できなかった。あのときの辛さを考えるとそれを人にする勇気が俺にはなかった。


 中学に入った私はいじめられた。入学式の日から、いじめをした張本人の一人として周りから白い目で見られて、しばらくして同性の女の子たちからいじめを受けた。暴力は受けなかったけれど、とても辛かった。彼はこれよりひどいことを三年間耐えたと思うと、改めて自分のしたことの愚かさが分かった。これは自分に与えられた罪だと思った。そして、三年がたち、私は高校生になった。


 高校生になって俺は以前いたこの町に戻ってきた。忘れもしない小学生の頃のことが脳裏をよぎる。地頭のよかった俺はそこそこの高校に受かった。今日はその入学式だ。小学生の頃とはまったく違った風貌で俺は校門をくぐる。なるべく知り合いに会わないことを願って。だがそんな願いはすぐに棄却された。三年たってもあまり変わっていない、少し大人びた彼女がそこにいる。あの時俺をいじめていたやつらのうちの一人だとすぐに分かった。だがそこにあの強気の彼女はいなかった。弱々しい姿をした彼女がそこにいた。

だか俺は彼女に興味がなかったのでなにごともなかったかのように横を通りすぎた。そこにはなんの憎しみも復讐心もなかった。なにか思うことがあると思っていたけど、実際はなにもなかった。完全にではないが心の傷は思ったよりもずっと風化していた。彼女は俺に気付いてないようだった。昔と感じはまったく違うし、よく見ないと気付かないだろう。

彼女とは関わることなく、俺は自分の学校生活を送っていた。そんなある日、俺は彼女がいじめられているのを見てしまった。気のせいかもしれないと数日様子を見てみるが、やはりそこにはいじめがあった。


 私へのいじめは高校生になっても収まらなかった。むしろ、よりエスカレートしていった。私はもう耐えられそうになかった。私の心はもう限界だった。だれかに相談しようとしても、周りが自分自身がそれを許さなかった。


 俺は、私は

「「もう我慢できなかった」」

 俺は決意した。彼女に手を差し伸べようと。

 私は決意した。もう生きられないと。


 俺は彼女に声をかけた。

「大丈夫か?」

 彼女はこちらを向き、俺だと気付いたのか大きく目を見張って驚いた。

 そして涙ながらにこう言った。

「ううっ、ごめんね、ごめんね、本当にごめんなさい。こんなことになるなんて思ってもみなかった」

「もういいよ。大丈夫だよ。俺も手伝うから二人でなんとかしようよ」

 何故だろう。俺の目からも涙が出た。

そのとき、俺はどうしようもなく悲しくて、

どうしようもなくうれしかった。

 誰もいない二人だけの世界に光が差した。

そんな気がした。

「俺は人を愛そう。困っている人がいたら、手を差し伸べよう。人を愛せば人からも愛され、人を憎めば人からも憎まれるのだから」

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いじめられっ子といじめっ子 柊 吉野 @milnano

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