第10話 アンナ・イレーネ・ナッサウ

第10話 アンナ・イレーネ・ナッサウ


 この世界に召喚されてから6日目。今日からはオリアナ先生による魔法の訓練が始まる。やはり異世界と言えば魔法だよな!

 自覚はないが左腕の治療も順調らしいし、今日は朝から気分がいい。


「おはようございます、マモルさん」


 今日もアンナさんが柔らかく微笑みながら食事の準備をしてくれる。というか、アンナさんは普段隣の部屋にいるんだが、俺が動き出すとほとんど同時にこうしてお世話をしてくれる。

 昨日なんて夜中トイレに目覚めたときにまでトイレまで案内してくれたんだが、この子いったいいつ寝てるんだろう。

「メイドとはそういうものです」とは本人の弁。よく知らないけどたぶんメイドさんってそういうもんじゃないと思います。


「さぁ、召し上がれ」


 今日はサンドイッチか。片手で食べられるしこれはありがたい。


「うん、うまい」


 塩コショウとカラシの利いたマヨネーズと、卵と鶏肉のハーモニーがしみじみとうまい。ていうかこの世界マヨネーズあるのか。マヨネーズで小金持ち大作戦は使えないな。無念。


「この鶏肉がすごくおいしいですね。味が濃い、というか野性味があるというか」


「鶏肉……? ああ、ドラゴニックオオトカゲのモモ肉ですね、おいしいですよね」


 ドラゴンなのかトカゲなのかどっちなんだよいい加減にしろ。でもうまい。うまいならどっちでもいいな。トカゲ肉万歳。


「それに、このレモン水も氷のおかげですごい冷えてておいしいです」


 するとアンナさんは嬉しそうに笑った。


「えへへ、昨日たくさん練習したので、氷も出せるようになったんですよ」


「おお、そりゃすごい」


「私は、多分お湯を作る方が得意みたいなので、クリスほど大きな氷は作れないんですけどね」


 なるほど、そういうのもあるのか。でもそれもただのイメージに過ぎないと思うんだけど……。最初に成功したのが温める方だったからそっちでイメージする方が簡単なのかもしれない。


「それでも、どちらでもできるようになったのなら、きっとうまくなりますよ」


「うふふ、そうだといいですね」


 ほんと可愛いよな、この子。


「今日から魔法の練習ですね」


「ええ、正直凄い楽しみです」


「マモルさんの世界の知識があれば、きっとすごいことができるようになると思いますよ。私も昨日みたいに色々教えてもらえたら嬉しいです」


 お世辞でもうれしい。期待に応えられたらいいな。


「俺はアンナさんのことをほとんど知らない。そんなアンナさんの優しさにただ甘えることが正しいとは思えないです。だから、俺で役に立てることであれば、何だって協力しますよ。お安い御用です」


「私は、アンナ。今はあなたのメイドです。それだけではダメですか?」

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