Waste Continent 〜ゴミの大陸に住まう者のはなし〜

オレンジのアライグマ【活動制限中】

0.新しくできた大陸

 人類が捨てたゴミは川から海に流れ着き、ついに太平洋の真ん中にゴミでできた大陸が生まれた。


 人々がどうしようと考えていると、ある科学者が突飛な方法を思いついた。





 「そうだ、このゴミでできた新大陸に人を住まわせよう。」






 とある有名企業が遺伝子組換え技術を使い、苔に似た植物を開発した。


 この植物をゴミに植えると海水で育ち、根を張ってゴミを周りのゴミを絡め取り一つの塊にしてくれるのだ。



 しかも、水に触れていない部分では、芝のような葉が生えるようになっていて、見た目も手触りも大変良い。


 春には蛍光色の花が咲き、受粉しなくても秋には様々な形の実がなる。


 勝手に増えることもないので、他の場所の生態系を壊す心配がない。




 植物を新大陸に植えると、わずか三ヶ月程でただのゴミの塊だった大陸に、ぬかるんだ大草原が現れた。




 この大陸の土地を購入した数少ない変わり者は、我先にホバークラフトを駆って新天地を目指した。



 ある者は、遺伝子組換え技術によって海水でも育つようにされた木を植え、また別の者は廃棄された大型タンカーを水耕栽培設備を備えた野菜工場に改造し、新大陸の海岸に停泊させた。


 土地が余っていることをいいことに、太陽光発電シートを敷き、メガソーラーを建設する者まで現れた。


 半年もすると、植物の根が十分に張ったことが確認され、新大陸に建築物を建てることが許された。



 さらに一年経つと、今度は海水で育つ牧草が発売され、新大陸で牧場を経営しようとする者が現れた。


 



 新大陸に住もうとする人も増えた。


 戦争や紛争から逃れてきた人々とが次々と新大陸を目指し、次に地球温暖化に伴う災害や海面上昇で住む場所を失った人々がやってきた。




 やがて、新大陸は一つの国として独立し、Waste Continent Federal(新大陸連邦)と名乗った。


 新しくできた政府は、他の国で処理に困ったゴミを受け入れ、多額の資金を手に入れた。


 そして、ゴミ処理事業は軌道に乗り、国の基幹産業になった。


 

 五十年も経つと、新大陸には、幾つもの大都市が現れた。便利で豊かな暮らしを手に入れた人がいる一方で、スラムもあり、貧富の差は大きい。


 ただ、スラムで生まれた人が都市で生活する権利を手に入れた例が少なからずあり、スラムで生活する人々の励みになっている。




 そのせいか、新大陸では犯罪率が低く、多くの人が夢と希望をを持って暮らしていると言われている。


 もっとも、犯罪率が低いのは、住んでいる人が一部を除いて皆、GPS発信器をつけているからだという者もいる。




 しかし、医療と教育のレベルの高さは誰もが認めている。


 何しろ、どんなに貧しい者でも満足に教育と最低限の医療サービスを受けられることが保証されているのである。



 また、政府は子供には大変優しく、新大陸で生まれた子供が、食べ物や着る物、住む場所で困ることはまずないという。





 これは、そんな大陸に住む者のはなし。










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