12


 ……また、悪夢を見てしまった。同じ、『入れ替わってよ』と言われるだけのもの。……だった、の、だけれど。何故かぼんやりとしていた視界がはっきりしてきて――


「――黒髪、黒目……ねえ」


 遠方の国にしか見られぬ特徴。それは、私が昔に生きていた世界日本で、最も多かった色彩で。

 何でだろう。不安しか感じられなくなってしまった。対立国に平民として来てしまったことより、不安で堪らない。同じぐらい――いや、それ以上にメレディスのことが心配なのだ。


 ……悪夢を見てしまったことも、心配事が重なり過ぎてノイローゼ気味だったから? 本当に、そんな簡単に片付けてしまって良いことなのだろうか?

 分からないから、不安に浸かってしまう。だからといって、泣くなんて真似はしないけれど。


「……ふふっ」


 不安な時は、いつもメレディスのことを考えていた。きっと今でも、安心できる筈。

 そう思って楽しかった記憶を思い返していると、穏やかな気持ちでいられた。気づけば笑みが浮かぶ程に。


 ……そう言えば、グレンにメレディスのことを託しているけれど、ちゃんとやってくれるだろうか。ド忘れでもしていたら、はっ倒してやる。あの子メレディスはどうも抜けているから……私が傍にいない分、誰かが助けてあげないといけないのだ。

 時折、メレディスが私を心許無いといった視線で見てきていた。その度に困ったような声色で宥めていたけれど。まさか、私を本当に頼りないと思っていたから? それは傷つくから、有り得ないと思いたいのだけど……。



 ふと視線を上げると、フワフワした髪の毛がベッドからぴょこぴょこ動いていた。……なんか、かわいい。


「あらまあ……」


 メレディスはこんな所にいる訳ないけれど、髪の毛のくるくるした感じがとても似ている。あの子のこともよく撫でていたから、つい、癖で頭を撫でていた。


「――っ!!」

「………………」


 少し触ると、驚いたように跳ねてしまった。その様子も可愛らしくて、続けてしまう。


 暫く撫でていると、ふぅっと溜息をつかれてしまった。……ええと、触り過ぎた?


「……ごめんなさい?」

「どうして疑問形なの?」

「あら、フィーナだったの? ふふふ、おはよう」

「なんでのんびりしてるの? というかヴィーナ、返事は?」


 子供らしく愛らしい胡姫、ルフィーナことフィーナが顔を出した。

 昨日もあの後、楽しく話していた。八歳だと思っていたフィーナは、なんと十二歳だった。幼く見られやすい民族であった上、人より成長が遅いのだと言う。その所為で教会内で最年長として頼られ、嬉しいけれど寂しいのだと話していた。

 年上が修道女長と神父ぐらいしかいないのだから、仕方の無いことだろう。まだまだ甘えたい年頃というか、自立しきれないというか。子供らしさの残る顔立ちも相まって、妹のように感じてしまった。


「まあいいじゃないの。それよりもフィーナ、折角の可愛い顔を顰めていては駄目でしょう?」

「ヴィーナのせいだもん」


 少し拗ねたように頬を膨らませると、益々幼く見えた。


 可愛い。天使。なんでそんなに愛くるしいのだろう。私を悶え死なせるつもりなの?

 思わず頬が緩む。十六年間、多分、合わせてもほんの数時間しか使っていないであろう表情筋。メレディスと二人きりの時以外は無表情だったから、まだ上手く笑えないけれど。

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