完璧人形の令嬢は、追放後に元婚約者から迫られています!?
音帆
1 婚約破棄されたいです
「――スカーレット=ローズ・ヴィクトリア・ルウェリン!! お前との婚約を破棄する!」
高らかに言い放ったのは我が国の王太子殿下――そして、私の婚約者でもある。
とは言えど、仲はあまり良くない。私が避けているうちに距離を置かれたからだ。今も当然、五メートル以上離れている。
……心情的に、ではなくて、ね。物理的に距離を置かれた。
「あらまあ、一体どうしてですの?」
まあ、こんな展開はお約束だ。
ただ一つ、違う事がある。それは、ヒロインがいないということ。私も悪役令嬢にならない為に奔走していたから、いなくても不思議じゃなかったのだけど。
でも、それはつい先程までの話。ヒロインがいなければ悪役令嬢はいないし、悪役令嬢がいなければ婚約破棄も起こらないはずだった。何故、断罪イベントまであと半年もある今、婚約破棄をしてくるのだろうか。……私が仕組んだから、なんだけど。
「それは、婚約が――俺が、お前との婚約が嫌だからだ」
「……理由をお尋ねしてしまい、申し訳ありません。それが殿下のお望みでしたら、仰せのままに」
「――お前と顔を合わせる事も嫌だと言ったら?」
「でしたら、国外追放にしてくださいまし。どうぞお好きなように。父母も喜びますわぁ……邪魔者が消えて、さぞかし――」
「――その口を今すぐ閉じろ」
「あらぁ、申し訳ありません。荷物をまとめる必要も無い事ですから、早々に消えますわね……どうぞ、お元気で」
本来なら、悪役令嬢は取り乱して処刑という末路を辿る。勿論私は死にたくなんてない。
……貴族でいたくもないから、国外追放となるように仕向けたんだけど。父母は王妃にならない娘など要らないから、勘当して修道院に押し込むだろう。それが、私の望んだ結果なのだ。平民として目立たず、修道女らしく俗世との関わりを断つ。もう、いやいやと完璧を演じる必要も無いのだ!
――おっと、まだ言っていなかった。私の名前は『スカーレット=ローズ・ヴィクトリア・ルウェリン』。ルウェリン公爵家の長女
ルウェリン公爵令嬢の渾名は『完璧人形』。美貌も頭脳も剣術も何から何まで完璧で、まるでその代償かのように欠落した感情。
完璧なのは、ゲームの中での設定だからだ。ポテンシャルも高く、何でもこなしてしまう。けれど、周りからの期待に応えなければならず、それは私の望むところではない。しかも、非常に疲れる。
そこで、「平民落ちが楽なんじゃないか」と考えた私は計画を立てた。婚約破棄→国外追放&勘当→晴れて修道女に! 理想が叶えられるし、周りに迷惑をかけづらい。
そうと決まれば、実行に移すだけだった。必死に完璧を演じ続け、見事婚約破棄まで漕ぎ着けたのだから。
『スカーレット=ローズ・ヴィクトリア・ルウェリン』は、もういない。『ヴィクトリア・スカーレット=ローズ』と名を変えて、修道女になるだけ。これからは修道女として地味に、目立たず、人に尽くして生きていくのだ。
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