第21話 【理解】&土台作りはもう終わり

「ケイー!サッカー団入ってくれよ!一緒にサッカーしようぜ!!」


うげ、俺の苦手な奴トップを独走中の奴が....。こいつの名前は、


「嫌だ。陰キャ移すぞ、佐藤。」


「佐藤じゃねーよ!!中村だよ、中村!てか陰キャって移るものだっけ?そもそもお前みたいな陰キャが居てたまるか!何回このやり取りすんだよ!相棒!」



誰が相棒だ。もちろん幼少期から適度な負荷を掛け続け鍛え上げた脳と【理解】が常時発動中なのに名前を間違えるなどあり得ない。


【理解】物事の道理や筋道をさとることに絶大な補正。


中々使い勝手がいい能力だと思う。この能力は【最先端サッカー学】と相性がいい。


去年の春に勉強の累積時間が千を超え発現してくれた。今後の成長次第では今までにないほど頼りになる【スキル】だろう。


3歳の時に獲得した【空間把握】は当初1メートルしか効果範囲はなかった。しかし今では把握範囲は2メートルを超えようとしている。使えば使う程効力も強まるのだろう。いつか【理解】で人の考えとか分かったりして。流石に無理か。


まあ、まだまだ熟練度が足りないのか、そこまで【最先端サッカー学】の解読に貢献しているかは微妙だが。理系の基礎的知識が不足しているのも原因なのだろう。もっと勉学に重きを置かなくてはいけないな。


【努力★】はご存じの通りただ練習すれば累積時間がカウントされるわけではない。


これは長年の考察で確かだ。ヴァリエーション豊かなメニューと本当に神経を磨り潰すほどの集中。それに加えて上達しようとする意志を示してやっと累積時間は増えるのだ。


その為、最初の部分は【最先端サッカー学】を使い、様々な訓練メニューを作成しなくれはならない。本当に気が遠くなる作業だし常に悩みの種だ。


また、前世では完全に文系だったからか統計学や専門用語が意味不明で何回心折れそうになったか。数学は絶望的にできなかったし、唯一得意だったのは英語だけだ。


まぁ、嬉しい誤算は【理解】がサッカーに応用可能なのだ。


一度対戦すれば相手の癖や特徴を強制的に悟らせてくれるのだ。なんか注意するべき所に違和感を与えてくれるみたいな。不思議な感覚だ。


さてこいつの名前の話だったのに随分話が逸れたな。


何回もサッカー団加入を断っているのに諦めない。何処かの漫画で一人だけ主人公の超能力が効かない奴みたいだ。なんだこいつは。


中村か。


「相棒じゃないだろ明らかに。何回も言ってるだろサッカー団には入らない」


「なぁー、そこを何とか。頼むよ格闘美少年さんよ。」


ニタァ としながら見てくる。う、うざい。こいつの煽りスキルは熟練度マックスだな。


「な、何の事だかさっぱりだな」


こいつだけにはバレたくなかったのに!顔に血液が集中してるのを感じる。


「動画見たぜ!しっかしお前何でもできるんだな!ヒュー流石我が浦和小学校の王子様!」


「王子様って何だよ!くっ、サッカー団は入らないというか、ジュニア入ったからスケジュール的に無理なんだよ。」


「ジュニア!?ま、まじかよ!すげーな!どこの入ったん!?」


「.....浦和」


「えーー!!超名門じゃん!俺も入りたい!」


「え!二宮くんジュニア入ったの?」


「私も話に混ぜてよ〜二宮くん〜何の話してるの〜」


「ケイ君って喧嘩強いんだね!私も助けてくれる?」


「二宮くん!ぼ、僕にも叱ってくれないかい?できればふ、踏んでぇ!!」


「.......愛してる」


やばい。普段話しかけるなオーラを出しているのに中村のせいで無効化されてしまった。


めっちゃ人集まるやん.....!てか今とんでもない小学生いたぞ!!そんな性癖オープンにして大丈夫なのか?!勇者だな。しかもなんかぼそっと寒気が。


こ、怖すぎる。よし、逃げよう。


ふう。教室に避難すれば大丈夫だろう。我が小学校では他のクラスに行ってはいけないルールがある。かなり謎だがおかげで助かった。自分の席に座って一息入れる。


「ふぅ...。小学生怖すぎる...。」


まるでピラニアの水槽に入れられた気分だったぞ。


普段ならあそこまで人は集まらないのに....やっぱりツイッパーやメディアに取り上げられたからだろう。こんな事ならさっさと警察に電話すればよかった。


いや、あの時は一刻も争う状況だったししょうがない。あのままエスカレートしていたら彼女は殴られていただろう。それにあの何もしない野次馬が果たして止めに入っていたか。


「また、会えるかな....。」


あの子本当に可愛かったな。また会えたりしないだろうか...。


あの時別れ際にされたキスの感触を思い出し、ほっぺを触ってしまう。


俺の好みどストライクの子なんだよな。なんか肌が褐色なだけで三倍くらい綺麗に見えたりしてしまう。いや、元々顔はかなり整っているし...


はっ、何を腑抜けたことを考えているんだ。サッカーで世界一を目指しているんだ。歴史に名前を刻むとか大それた事をやるんだ。よそ道している時間も余裕もないはずだろ。


少しジュニアのセレクションで活躍たからってこんな甘い考えを持ってしまう自分に少し落ち込む。少し見直さなければな。


でもまた会いたいな...。だ、ダメだろう。おい!しっかりしろ二宮ケイ!


その後も名も知らない子の事を繰り返し考えてしまう二宮なのであった。自分の机で、あーでもないこーでもないと首を振る彼はクラスの目線を独り占めしてたのは言うまでもない。


普段なら鋭い五感を持つ二宮はすぐに注目されている事に気付くだろう。しかし彼女の事を考えるのに夢中で周りの意識が彼に向いている事すら気付かない。


そして自分のこの気持ちが恋だと果たして理解しているのだろうか。


前世の30年分の経験は全く使えないようだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「早く学校終わらないかな。」


今日はなぜか学校にいる時間が長く感じる。しかし放課後のことを考えたら心が高鳴る。本当にワクワクするな。


なぜなら今日からジュニアだ。


昨日の電話で、施設の案内もあるし来てくれと伝えてきた。浦和レッドも早めに所属を明確に表明して既成事実を作りたいのだろう。まあ契約書はあるのでパフォーマンスに近いが。


また相手も俺が豪語する自作の練習メニューを見たいのだろう。契約の最初の方に記載されているメニューは自分で決める所だが、実は面接中かなり渋い顔をされたのだ。


相手にもこれまで何百人とプロを育ててきたプライドがあるのだ。そう易々と子供の好き勝手に練習させていいのかと心情的に従えない様子。効果も懐疑的だった。


しかしここまでサッカーが出来るのは全て、今までこなして来た練習方法のおかげと大口を叩いたのだ。そこまで言うならと合意に至った。


話に戻そう。浦和がガードしてくれる事はサッカー選手の道を突き進む俺からすると願ったり叶ったりだ。余計な時間を他の分野で取られたくない。


あのよく分からないツイッパーの連中に個人情報晒されたから、武術組合?が接触してくるのは時間の問題だろう。


助けた側なのになんでここまで晒されているのか、誰か本当に教えていただきたいものだ。


まぁいい。これからは基礎技術だけではなく、【最先端サッカー学】の応用編に積極的に移行できるのだ。それが正直一番嬉しい。


ドリブルを極めるには練習だけではなく、実戦経験が必要だ。今までの時間は全て土台作りに捧げた。


常軌を逸したレベルの時間だ。普通の子供だったらつまらないで有名な、楽しくない基礎練習なんて少しやったらすぐ止める。応用を学びたくなるからだ。


それもそのはず。最初はぐんぐん基礎技術が伸びるだろう。しかしある一定の練度から上げるのは一筋縄ではいかない。指導者もこれくらいでいいだろうと考え、止めて応用の技や技術を教える。


しかし、俺が基礎に捧げた時間は約2万時間。これは狂気の鍛錬量だ。【スキル】で努力を厭う気持ちを軽減と向上心が増えている状態でさえ同じ技術を毎日極め続けるのは神経をすり減らすものだった。


その休憩で応用技のダブルタッチやルーレットを出来るようになったがまだ完璧に仕上がったとは言えないだろう。


イニエスタ選手はダブルタッチをパスなどに使う程仕上げている。それと比べるとまだまだだ。


これに関しては仕方ない。世界一の魔術師と呼ばれる選手だ、そう簡単に追いつけるはずがない。


しかしこれからはもっと多くの事を学べるだろう。基礎の時間はクリアした。土台に関しては世界一だと思う。それくらい時間も神経も使った。


キンコンカンコーン、キンコンカンコーン、


よしっ!学校終わり。ふふふふ!自分が心臓が早鐘を打っているのが分かる。サクッと帰りの会を終わらせ、全力疾走で廊下を駆け抜ける。


「こらっ!廊下は走ってはいけません!」


すみません先生。今日だけは許して!こんなに胸を踊らせるのはいつぶりだろうか。今日からもっと上手くなるぞ!


素早く靴に履き替え走って校門を出る。家まで歩いて20分、走るなら10分もかからないだろう。鍛え上げたスタミナを披露してやろうと思っていると。


ん? なんだあの黒い車。おいおい、勘弁してくれよ。

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