第19話 非常識な時間
「ケイー!ケイー!貴方テレビに出てるわよ!」
「へっ?」
急いで一階に行くと、テレビの画面に映し出されていたのはDQN達と肉体サッカーした時の映像。
え、は? ナニゴトですか。
テレビの画面にはデカデカと
〔格闘少年暴漢から女性を救う!〕
と書かれており、目眩がする。
しかもどのニュースチャンネルを開いても撮られた映像が流れている。野次馬達何してくれてるの。
〔二人を相手に圧巻の動き!格闘界の新星スター?!〕
〔怪我を負いながらも女性を守った少年!〕
〔日本にヒーロー現る!〕
〔浦和警察署、少年に警察協力賞授与検討か?〕
どうしてこうなった!頼むから過剰防衛だろとか言わないでくれよ.....。
せめてもの救いはモザイクがかかっていることだ。
てかメディアの仕事早すぎるだろ?!
まだ数時間前の出来事じゃんか!
チャンネルを回していると、なんか専門家を招いて議論しているみたいだ。まじで何やってるの。
「村上さん本日はお越しいただきありがとうございます。」
「いえいえ、AAニュースに出れるなんて光栄ですよ。はっはははは!」
「早速ですが今ツイッパーで話題の映像をご覧になりました?」
「少年が暴漢二人を相手にするやつですね。何回も見ましたよ!あの子は天才です!これから格闘界に革命が起きるでしょう!!日本人初MMA優勝も狙えるでしょう!」
「す、すみません。素人で分からないのですが、そこまで凄いのでしょうか?」
「凄いなんてものじゃない!武闘家の達人でさえ、3人で囲めば何もできないでやられます!死角からの攻撃には予想でしか反応できないからです。映画みたいに上手くいきません。」
「なるほど。」
「それに加えて!あっ!映像のリプレイお願いします!.....ストップ!ここです!ご覧ください二人同時に殴りに来ています。一人は完全な死角からの攻撃!それを最も効率のいい捌き方で対処!」
「つまり本来見えない筈の攻撃を躱したということですか?」
「そうですね。しかし、何が恐ろしいかというと2分以上2人の全ての攻撃を避けているのです!全くかすりもしない!!まるで後ろに目があるかのように!こんな事出来る人間は他にいません!是非!我が総合格闘技組合に選手登録してほしい!彼の名前は!教えてくれ!」
「あ、あの落ち着いてください。彼はまだ未成年なので個人情報は公開できません。」
「そ、そんな。テレビで観ている君!是非総合格闘界に来てくれ!一緒に世界を取ろう!!!」
「む、村上さん!落ち着いてください!こ、困ります!」
カメラに近付き世界を取ろうと叫ぶ男を最後に無言でテレビを消したよ。なんだこの放送事故。
「え、ケイ!観てたのに消さないでよー」
母さんの声を聞き流し、二階の部屋に戻った。
机に置いてあるスマホを開き、恐る恐るツイッパーを開いてみる。
ま、まじか....。
〔トレンド1位 格闘美少年暴漢ボコボコに!〕
モザイクかかってないじゃん!
え!おいおいおい!誰だよ!
ツイッパーに俺の顔写真、住所、電話番号、家族構成。え?そこまでバレるのって所まで全部お見通し。
ま、まじか.....。誰だよ俺の個人情報暴露したアカウント。仕事早過ぎでしょ。
流石情報社会。一瞬で丸裸にされた気分だ。
もうダメだ.....。
今日一日色々あり過ぎた。せっかく車を選ぼうとしたけどもう無理。
おや....す......み
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
おはようございます。今日も絶好のサッカー日和ですね。
さてさて今僕はとんでもない出来事に巻き込まれています。
実は昨日ジュニアセレクションが終わった帰り道にDQNと肉体サッカーしたんだけど、
《DQN髑髏を倒しました》
クエスト完了です
とは全くならなかったんですわ。
窓の隙間から覗くと外に溢れかえる記者団。まじで今朝の7時だぞ?住宅街で何やってるの。
こいつらに常識とかないのか....。だからマス◯ミとか言われるんだよ。
こいつらのせいで朝のランニングもできないし、3歳から毎日続けてる記録が途絶えてしまう。どうしよう。
よし、こういう時は国家権力に頼もう。警察に.....だ、だめだ。
確実に大事になる。
これ以上騒がれるのは面倒くさい。いや今から慣れないといけないかな。
母と弟は不安そうに外を見ている。その顔を見てカッとなってしまった。
パジャマ姿で玄関に行く。
ケ、ケイ?!とお母さんが止めようとするがそんなのお構いなしだ。
「今何時か分かっていますか?取材は良いですけど常識を考えてください。今家ではお母さんが怯えています。僕の弟もです。警察呼びますよ?今日来ている人は覚えたので、ここにいる報道陣の会社からは今後一切取材は受けませんので。では。」
一方的に、言い家の中に戻る。母さんから抱きつかれた。頑張ったねと。
朝から本当に最悪だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私の名前は佐藤ひなこ。私はとある放送局に勤めている。
新卒で入社でき最初は浮かれていたけど、目の前の光景に憂鬱になる。
ある一軒家に早朝から押し掛けているからだ。完全に近所迷惑だし、慣れない一般人には恐怖だろう。
朝起きたら何十人もの人がカメラを向けて家を囲んでいるのだ。怖くないはずがない。
私もそうだが、常識的に考えてこんな早朝から家の前に張り込むのは気持ちの良いものではない。
上司にはもっと良心的な時間に取材をしないかと提案したが受け入れられなかった。
メディア界でも自己中過ぎて疎まれている連中を目にして、自分も同じ様に見られているんだなと悲しくなってくる。
会社選びミスったなー....そんな事を考えていると、
ガチャとドアが開く音が響く。
私も他のライバル社に負けないよう前に詰める。
そうすると中からパジャマ姿の美少年が出て来た。
ツイッパーに流れていた動画で整った容姿をしているとは分かっていたが、実物は想像以上だ。
サラサラと指の間から溢れ逃げて行くのではないかと思わせる綺麗な黒髪。
意志の強さを示す澄んだ瞳。鼻筋が通っており、日本人とギリシャ彫刻の良い部分を合わせた顔。
十年後は確実に女の涙製造機になるだろうなと関係ない事を考えてしまう。
整った顔からは想像以上に厳しい言葉が出てきた。
「今何時か分かっていますか?取材は良いですけど常識を考えてください。今家ではお母さんが怯えています。僕の弟もです。警察呼びますよ?今日来ている人は覚えたので、ここにいる報道陣の会社からは今後一切取材は受けませんので。では。」
滑舌はとても良く、聞くこっちが惚れ惚れするような声。新人アナウンサーより確実に聞き取りやすい。
しかし内容はとても痛い所を突いてくる。
小学生に説教されるとは.....。その事実が私の心を抉る。
本当に転職したい....。
上司はなんだあの生意気な態度はっ!とよく分からない事を口走っている。
警察を呼ばれるのは自社の評判を地に落とすと思ったのか各々帰りの支度を始めるみたいだ。
はぁ、本当に辞めたい。
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