っぽい短編

黒いもふもふ

休憩中

 機械たちの低い音を壁の向こうに、嘘くさい味の栄養ドリンクの最後の一滴を口に入れた。後輩は音を立ててあるかないか程度の残りをストローですすっている。端末をスクロールしては苦い顔をしていた。


「今もおかーさんにお金、送ってたんだっけ?」

「送ってないですよぉ。さすがにもう付き合ってられないです。ときどきメールは来ますけどね」


 じゃあなんでまた口座の残高を見てため息をついているのか。ここに来た最初のころもあの二桁の残高を見たことがある気がする。


「コクーンがぶっ壊れちゃったんですよね……」

「あれまぁ、そりゃあ金欠にもなるか」


 寝るところがなくちゃあさすがに困る。その上彼女はコクーンのタイマーがなきゃまともに起きない。前に一度とんでもない大遅刻をして、退勤システムがめずらしく怒号を飛ばしていた。


「保証とかだめだったの?」

「あれ、中古のなんでダメですね」

「……中古のコクーンなんてよく使えることで」


 後輩は空き缶をゴミ箱に放り投げた。


「実の親が自分のベッドでシコってたのに比べちゃったら、大半のことは許せるようになりますよ」


 彼女の口からたびたび出るこれに対する返答は何が正解なのだろうか。飲みの場なら、笑い飛ばせもするだろうが、あいにく互いに酒は得意ではない。


「いつ聞いてもえぐいなぁ」

「なぁんでこんなクソ親のもとに生まれてしまったのか」


 親は子どもを選べるからいいですよね、と続いた言葉は休憩時間の終わりを知らせるチャイムとかぶった。


「……結局、この前の話なくなったんでしたっけ? あの、あれ」

「あれからなんも聞いてないし、ダメになったんじゃない?


 数か月前に出した要望はまたも通らず。しばらくはこのままなのだろう。


 世界を支える母の娘。その姉妹の末っ子の館はいまだに使用人が二人だけである。

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