お風呂のふたと、いつも隣にいてくれたキミの身体のぬくもりを

柳成人(やなぎなるひと)

プロローグ

 前の晩、強い風が吹いた。

 叩きつけるように降りしきる雨と、家を揺らすほどに唸る風。一晩中暴れ続けた嵐が過ぎ去ると、ママとお散歩に出た翌朝には雲一つない透き通った青空が広がっていた。


 風にもぎ取られ、歩道に散乱する葉が色づいているのに気づいたママが、ポツリとつぶやいた。


「あら、もうそういう時期なのね」


 胸にチクリと針で刺されたような痛みを感じながら、わたしも無言で隣を歩く。


 秋が、近づいていた。


 街路樹の葉が色づき、歩道に落ち葉が舞う季節になる度に、わたしはいつも思い出す。


 お風呂のふたと、いつも隣にいてくれたキミの身体のぬくもりを。

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