第一章 迷える暴牛

ワルキューレ騎士団、始動します。

「いやあ、魔王様がこんなあっさり倒されるなら、私も勇者様のパーティーに入れてもらいたかったなぁ」

「んなこと言ったって、国がイザベラ様を危険に晒す訳にはいかんでしょ」


 そう笑いながらイーサン議員は、見るからにお高めの紅茶を私に差し出した。私は茶よりコーラが飲みたい気分だが、私も後々国を治める人間。そうである以上我慢しなければならなかった。全く、身分に囚われてる現代社会は好きになれないね。


「会う度言ってますが、貴女は王家の血を引いてるし、魔力も特級レベル。そんな希少な存在を万が一失うような事態になれば、この国は確実にひっくり返ります」

「わかってるって、去年の事悔やんでったって仕方ないしね」


 ま、そんな愚痴話より、そろそろあの話について確認しなきゃならない。

茶を上品に飲むのはやめだ。ティーカップを口に大きく傾け、残っている茶を一滴残らず飲み干した。イーサンが少し引いてるとこを横目に、私は口を開いた。


「そろそろ私の騎士団の活動日近づいてるんだけどさ。上での様子はどうなってるの?」

「……やっぱり議会での反対意見は多いです。特に老議員。女騎士だけの騎士団は実例は無い訳ですし。このまま議案が通れるかどうか怪しいところです。」

「んだよなぁ」

 うん。聞きたくはなかったが、老害どもはこう易々と受け入れるとは思えなかった。最近女が戦士だの政治家だのなってることが多くなってるが、所詮この世界は必然的に男尊女卑でないと成り立たない。特に女が騎士で成り上がるということは上的に良いことでは無いだろう。

「なんだよ折角良いとこまでいったのにさ。狸ジジイどもは毎晩かわい子ちゃん買ってズッコンバッコンしてるくせに、女性の社会進出にはあーだこーだ口だしやがって。女はお前らの(自主規制ピーーー!)じゃねっつうの」

「イザベラ様! 両親がここにいないからって言葉が悪すぎます!」

 ヤバイ。流石にまずった。こうゆうの胸糞悪い奴に毒吐く癖は抑えるの難しいんだよ。許してくれよ。直さないけど。


「これはごめたんごめたん。んで、もう私たちはこのまま諦める感じ?」

「いやそれがなんとですね。審議の結果、まずは条件次第で半年ほどなら良いよと話を通してくれました!」

「本当に!? そんなんもっと早くいってくれよお!!! 良かったー!」

 なんか完璧に私の夢は叶いません。 ちゃんちゃん♪ バッドエンドの雰囲気だったよ 危なかったまじで。まどろこしいよイーサン。お前の話の仕方は大抵、下げて下げての希望を与えるスタイル多い。かえってネチネチしてるからやなんじゃい。まあいい、私はこれで一息つけられる。


「しかしさ、その条件ってなんなの? 内容がもしセクハラ案件だったらすぐ議会に乗り込むよ。拳で」

「ダメです。本当に。まだ公になってないので大きな声では言えないんですけどね。一応耳貸してください」

「うん。わかった。なになに」

 私は耳を近づけ、イーサンの口からその条件を聞かされた。それはあまりにも驚くべき内容だった。

「……まじの話?」

「まじの、本気です」

「…………ンフっ」

 内容が個人的に、あまりにも面白く、つい不覚にも笑ってしまった。

ふーん。忙しくなるなこれは。




___________________________________



 イザベラ姫が議員との会談を終えて、颯爽と館から降りてくる姿を捉えた。その喜び様を見るに、騎士団の話は無事に通ったのだろう。

「姫。お疲れ様です」

 私はすぐさま魔動車の扉を開け、後部座席へと乗せた。

「ありがとうアメリアちゃん。時代は馬より車よね」

 馬に乗る職業の人がそんなこと言って良いのだろうか。

王国が生産されたばかりである車に仕事取られちゃ、騎士達はたまったもんじゃないのだが。

「あっ運転中ケモ耳触らせて」

「後にしてくれません?」


 私は運転席に向かい、車を騎士団本部へと走らせた。魔導車の運転知識は姫から教わった。(正しくは無理やり学ばされた)若干不安は残るも、広い王国をそつなくまわれる自信はある。


 …とゆうか剣と魔法が溢れるこの世界にこんな物が流行ってよいものだろうか。確かに王国の研究省が魔力をエネルギーにした機械が開発し、国民の生活はますます便利になった。だがこれらが続々生産されれば、瞬く間に世界観がぶち壊しなのでは?

 公衆電話とか、画面型受像機とか、音響機器とかエトセトラ……

この世界はより良くなってるんだが。迷走してるんだが。


「んで、どうでしたか騎士団の件は」

「あはは大丈夫。問題なく活動できるよ!」

 姫が満面の笑みでそう答えた。あのクソの掃溜みたいな議会で

通れたのか。凄い話だ。

「よかったですね。これで姫の夢が叶いますね」

「それはいいけどさ、実はアメリアちゃんにお願いがあるんだけどね」

「なんです?」

「……魔王に娘がいるって話。聞いたことある?」

 

「聞いたことあります。風の噂ですので、あんまり聞かなくなりましたが」 

「その子、うちで雇うことにしたから」













…………………………………はっ?????


 気がついたら、私はブレーキを踏んでいた。突然のことだった。

「いったぁあ〜! そんなびっくりするこたないでしょう!」

「びっくりするに決まってんでしょうが! かつて人類を破滅に導こうとした魔王の子供をね! き、騎士団に入れるなんて 前代未聞です!!!」

「だって、その子をウチに入れないと……この話が……白紙になるって言われたぁん……ぴえん」

「世の中ぴえんで済んだら大間違いですからね。完全に議会からお荷物扱いされてるんですけど! 嫌ですよ私嫌です」

「もう決まった話だから。相方もパーフェクト侍女アメリアちゃんが組むことになったから」

「何してくれるんですか……!」 

「君が阻害を受けず出世するにはこれしかなかったんよ」

 そうかなるほど。私の運命も議会に握られていたわけか。私は平凡なお仕事生活を送りたかったのに。もう決まったことなら受け入れるしかないだろう。

「うちに入れるのも、バディ組むのも難易度が高いですけど」

「確かにウチの足で纏になるかもしれない。でも同時に起爆剤にもなり得る。自分勝手な考えだけど、ウチの騎士団に足りない何かを埋めてくれる存在になってくれるよ多分。あっ安心して、その子ならアメリアちゃんと確実に気が合う筈だから」

 随分と太鼓判を押すな姫は。確実にこの状況を楽しんでいる。姫のポジティブ

精神につくづく尊敬するよ。そこまで言うなら私も信じてみるか? いや、姫の侍女である私はこのまま信じるしかないだろう。ここまで来たならもう引き下がれないから。

「……分かりました」

 私は、止まったままだったアクセルを再び踏み直した。




____________________________________




 ついに迎えた『ワルキューレ騎士団』活動初日。私は晴れて騎士になることができた。が、その横でなんか知らない内に郊外が爆発した。


「これだから嫌なんだよおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」




 

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