第4話:レキちゃんとソラくん、イケメンに出会う。そのに!
俺は基本ひとりで行動するけど、休み時間や昼休みにちょいちょいソラと話をするようになって、色々、主にレキの話を聞いた。そして、思わぬ共通点を発見する。
「え、水久保くんもロック好きなの?! いつくらいのやつ? 俺とレキちゃんは、レキちゃんの叔母さんの影響で90年代とか大好き!!」
昼休み、レキとの昼食を終えたソラが校舎の屋上でぼっちメシ決め込んでた俺の所に来て、音楽の話になった。
「あー、俺も洋楽なら90年代後半から2000年代前半くらいまで。邦楽の方がよく聞くね。姉貴がいてさ、幼稚園の頃からミッシェルとか聞かされてた」
「すごい! 俺らは洋楽も邦楽も大好き! チバユウスケさんかっこいいよね〜!!」
「いい感じに年取ってるよな。姉貴はアベフトシを生で見たことあるよ」
「は、え、ホント?! 亡くなる前に?!」
「そうなんだよ! こればかりは羨ましい!!」
これまで洋楽も邦楽も、古いロックについて語れる奴なんかいなかったから、俺は思わず我を忘れてソラとロック談義に大輪の花を咲かせてしまった。
「俺さ、最初に行ったライブがMUSEなんだよな、姉貴に拉致られて」
「ヤバいじゃん! いきなり世界最強のライブバンド見ちゃったら他のバンドつまんないでしょ?」
「正直それはあるけど、パンク系のインディーバンドとかは結構ベクトル違うから楽しめる」
「いいなぁいいなぁ。俺とレキちゃん、親が厳しくて、ライブ行くの禁止されててさぁ」
「そりゃもったいないな。今誰見たい?」
「ええ〜、全部見たいよ! あ、でもシロップとか見たいかも!」
「あー、シロップは当たり外れ激しいから——」
「あ! ごめん、レキちゃんからライン来た!」
ソラはスマホを取り出して液晶を見ると、元々大きな眼をさらに見開いて、
「ごめん、俺教室戻る!」
とだけ言って走って行った。
別に珍しいことではないので、俺はコンビニ弁当を食い終えて、一本吸ってから校舎に入った。
階段を降り、三階の廊下をF組からD組に向けて歩いていると、D組の教室の前に人だかりができているのを発見した。
——ヤバくない? まずいよ、ユイくん今日いないし……。
——ホントやだ、これやだよ、誰か止められないの?!
ざわざわと教室のドアから中を覗き込んでいる連中はそんなことを口々に言っていたが、俺に気づくと全員がばっと振り向いて、俺は全身を殺意の視線で貫かれた。
な、何だよ、おい。
「今だって匂うんだよ! アイツのタバコ臭が!」
突然、レキの大声が教室内から廊下まで響く音量で響いた。
「レキちゃん変な誤解しないでよ! 水久保くんとはロックの話で盛り上がってただけで——」
「だったら俺も混ぜろよ! わざわざ人のいない所でこそこそやんねえで!」
おいおいおいおい、これって——
「だから違うって! 水久保くんは今までロックについて話せる相手がいなかったから——」
「そんなん言い訳だろ! 俺だっておまえと同じ音楽聞いて育ってきたんだから、そこで俺を呼ばねえ時点でやましいことがある証拠だって言ってんだよ!」
「レキ!!!」
俺は気づいたら教室に飛び込んでいた。
「おまえ変な誤解してるよ! ソラの言う通りで、俺は今まで音楽の話をできる相手がいなかったんだ、ずっと。だからソラとその話をして、盛り上がったのは事実だけど、それ以外だとソラはおまえの話しかしなかったぞ? いかにおまえがかっこよくて、いかにおまえを好きか、ソラは毎日それしか言わねえ!」
レキは眼を見開いてその不思議な色の瞳をさらに光らせた。教室内には、他に女子が数名いるだけだ。
「水久保くん、あの——」
「正直に言うと、俺はおまえらが羨ましい。男同士とかそういう意味じゃなくて、性別も何も関係なく好き合える関係性が、俺は羨ましい。俺だってこれまでそれなりの恋愛経験はあるけど、なんつーか、自分で言うのもおこがましいけど、今まで付き合ってきた女子達は俺の見た目だけじゃなくて内面の深いところまで知って俺を好いていてくれたのか、正直自信がない。俺だって相手の嫌なところにばかり目が行く。そんな自分が嫌になる。だから俺は本当の意味での恋愛ってやつができねえんじゃないかって、たまに恐くなる」
レキは視線を落とした。ソラは泣きそうな眼で俺を見ている。
っていうか、俺はなんでこんな、今まで誰にも悟られないようにしてきた自分の一番奥底の感情を衆人環視の教室で語ってんだ?
「レキ、おまえが嫌がるなら俺はもうソラとは話さない。でもおまえ、さっきロック好きって言ってたよな、もしそれがホントなら、これからは三人で音楽の話、しねえか? 俺も音楽仲間は欲しい。それに何より、俺は俺ごときのためにおまえらの関係に悪影響を与えたくない。だから頼む、信じてくれ。俺は……」
そこで言い淀むと、突然教室の後方にいた女子たちがパチパチと手を叩き始めた。
——はい?
「凄い、泣きそう……! 水久保くん、そういう風に思ってたなんて——!」
「マジ今のはエモかった! 本音でこの二人に語ってくれた!!」
「尊い……! もう、三人で末永く仲良くして欲しい!!!」
廊下の連中も、少しずつ教室内に入ってきていた。
「水久保くん、ありがとう!」
ソラが眼をうるうるさせて寄ってきて、俺の両肩をばんばんと叩いた。
「んーなんか、こっちが誤解させちゃって申し訳ないけど、おまえの本音聞けてよかったわ」
さっきまであんなに激昂していたレキすら、薄く笑って俺を見下ろしていた。
えーと、これは一体どういう状況なんだ?
「あ、水久保くん、多分誤解してるけど、これ、俺らの月イチの恒例行事なの。通称『アタシ生理前でイライラしてるからアナタへの不満を全部ぶちまけるわ』の儀式」
……あ、頭の回転が追いつかない……。
「ん、別名『痴話喧嘩公開処刑ごっこ』」
「違うよレキちゃん、今日はリクエストだったから『ごっこ』じゃなくて演技だよ」
——はい?
「通じてない!」
教室後方にいた女子のひとりが立ち上がった。
「水久保くん、レキちゃんとソラくんは喧嘩する芝居をしてたの! 私たちのリクエストで!!」
「リ、リクエスト……?」
「そう! 私たちが、二人に『普段喧嘩しないの?』って聞いたら、『月イチで言いたいことを言いまくる痴話喧嘩ごっこしてるから大丈夫』って言うから、ウチらが見てみたいって言って、それで……まさかリアタイで水久保くんとソラくんが一緒にいるとは思わなくて、その、そういう喧嘩ごっこを……」
唖然。
じゃ、じゃあ俺は何の必要性もなく、自分の最大の苦悩をこんな大勢の前でぶちまけたってことか?!
「水久保」
教室に入ってきた男子のひとりが、声をかけてきた。
「俺、いや俺らみんな、多分おまえのこと誤解してたわ。顔がいいから調子こいて誰ともつるまない気取り屋、みたいに思ってる奴多かったけど、おまえもそういう気持ちがあったからひとりだったんだな」
「わ、私もさっきの水久保くんの言葉に感動した! 私なんかが言っても何の役にも立たないだろうけど、いつか水久保くんの全部を好きになってくれる人が現れるといいなって、応援したい!!」
「俺も!」
「私も!!」
——この日以来、俺はクラスメートや他の同級生からよく声をかけられるようになった。中には自分も音楽の話をしたいとCDの山を持ってくる奴も現れた。
……人生、何がどう転ぶか分かんねーな。
でも、レキとソラがいなかったら、今の俺はなかった。サンキュな。
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