現実と願望の隙間
金が欲しい。
だが犯罪や卑怯な事をしたくない。
幸せでいたい。
だが金が要る。
好きな事をして金を稼ぎたい。
だがそう簡単にはできない。
社会の中で生きるには、そのような事がたくさんある。
楽していきたい、だが社会全体がそれを許さないかのように丁寧に構築されている。
「はぁ、バイト見つけなきゃ」
深いため息とともにそんな事を考えながら残り僅かなお金を持ちながら次のバイトの面接にへと向かう。
他の人やクラスメイト達は次々にバイトを見つけていくが、僕はそうでは無かった。
コロナと言う荒波に飲まれ、他のことが一歩遅れて行うことになってしまった。バイトも勉学も、何もかも………遅れてしまった。
だが遅れたとはいえ生きるためには、金が要る。
面倒なことに面接して採用されて働いて金を稼がなければならない。生きるためには必要なのだ。
金が、生きるための糧が、
ブーッ、
すると、懐に入れていたスマホが小さく震える。
丁度目の前で信号の色が青から赤に変わった所で来たため、自分は他人の目なんかお構いなしにそのスマホの画面から映されるゴシック体で書かれたメールを読む。
送り主はどうやら、母のようで、その文面には、心配そうな内容とほんの少しの野菜とお金の仕送りを置くったとのことが書かれていた。自分はその文面を見た瞬間、心が痛くなった。
なぜか、と言われてしまえば、ただ真面目で正直者でしか取り柄の無い自分は働きもしない親孝行さえもできない馬鹿な学生であるからだ。無理やり親に頼み込んで東京にある専門学校に行きたいと頼み、アパートの部屋も借りたのだが、それに合わせるかのように世界中ではコロナが蔓延し、あっという間におかしくなってしまった。
そのおかしくなったのはもしかして自分かもしれない。今まで親に無理を言って学費の高い学校に行ったことが原因だろうか? それとも今まで親に甘えてきたツケでも帰ってきたのだろうか?
どちらにしても、心が痛い。
孝行もできず、独り立ちもできず、ただ苦しく生きて行くだけ。
甘えた結果がこれだと、理性は必死に語り掛けてくるが、別段どこからか『そのままでいいじゃん』と悪魔が語り掛けてくる。
本能かそれとも今までの堕落か。
どちらにせよ、胸が苦しい。頭が痛い。
健康でいようとしても金が要る。
趣味を嗜もうとも金が要る。
何事にも金が要るこの世の中で、将来、親のすねをかじり続けて生きて行くという事に恐怖感を抱く僕には、誰かの助けと言うものは心に来るものだった。
パッポー、パッポー、と青信号を知らせる音が町の騒めきに消えてしまいそうな程、遠く聞こえていた。
古く話の世界たち 山鳥 雷鳥 @yamadoriharami
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