青い瞳の少女 後編

「ではこれを頼むわね」

喫茶店に入ると「青」の瞳の少女は手慣れた手つきで彼女は店の品物を注文し始める。

「あなたは選ばないの?」

「え? あ、じゃあ、珈琲を一つ」

 「青」の瞳の彼女は、彼のも、と喫茶店の店員さんに言うと彼女は優しそうな顔で私のことをじっと見てくる。

「まずは自己紹介を頼みましょうかしら」

「あ、はい! 私の名前は、小林 優紀と言います」

「ユウキ・コバヤシ? かわいい名前ね」

「そ、そうですか?」

「えぇ」

 「青」の瞳の彼女はくすくすと笑いながら、私のことを見つめ続けると、徐々にくすくすと言う微笑をやめ、私のことをまっすぐとした瞳で見る。

 その瞳は、まるで私のことを閉じ込めるかのように、深く綺麗で溺れそうなほどものだった。

「私の名前は、ラフェル・ルー。ジャポンには旅行で来てみました」

「ラフェル・ルー、さんですか」

「ラフェルでもルーでも何でもいいわ。けれど、フルネームは嫌いです」

「青」の瞳の彼女はまるで、わがままを見せる少女のような片鱗を見せ、先ほどから見せていた妖艶な大人の女性とは全く逆な雰囲気、ギャップを感じる。

「そ、そうですか。では、ルー、さん」

「何かしら?」

「なぜ、私のようなものの言葉を信じたんですか? 普通、全くの他人から話しかけると最初はだれもが疑いますよ?」

「そうなのかしら?」

「えっ?」

 私はルーさんの言葉に一瞬だけ驚く。

「今までそんなこと無かったから」

「け、けど、本当にただのなんぱだったらどうしたんですか?」

「さぁ? わからないわ」

「そ、そうですか」

 私はルーさんの言葉に半ば頭を痛めながら彼女の話を聞いていると、彼女はなぜかニヤニヤと私のことを笑うかのように見つめてくる。

「それに、あなたはそのようなことをするのかしら?」

「え?」

「あなたは私をナンパしてもしかしたら遊んじゃうような子かしら?」

「え、ち、ちが」

「いえ、そうとは言えないわよね」

「!!」

「あなたは私のことが気になって、心の中では他の人と変わらない下卑た欲望があるの。私、そのようなことがわかってしまうの。あなたは心の中をさえも」

 一体、何を言っているんだ、と思ったが、私はその言葉に反論ができなかった。

 なぜならその瞳には、真実がありそうだったから。私が今欲しかった答えがそこにはありそうで、ルーさんの瞳はまるで私の心さえも見抜いていそうなほどの力があり、私自身、その瞳の中に取り込まれそうなものだったから。

「……」

「ふふ、そうらしいわね」

 何も言えず、私は顔を下げる。

 沈黙が私とルーさんの間を挟んでいるテーブルを包み、店内に流れるつまらないクラシックがBGMのように小さく流れる。

「あなたの欲しい答え、私、知っているわ」

「え?」

 沈黙が続き、かちゃんといつの間にか来ていた注文の品が置かれ、店員さんが店奥へと消えていくとルーさんはそう呟く。

「その答えはね『亡霊』よ」

「ぼう、れい」

「えぇ、亡霊。忘れたくても忘れられない人たちの目」

「……」

 私はその言葉を聞いて、息を飲む。

 今まで疑問に思っていた問が今この場で何ともないような場所で開かれた。

「亡霊というものはね、本当に悲しいの。忘れてほしいのに、忘れてほしくない。そんな矛盾を抱えながらただ彷徨っているの」

「……」

「それにデイヴィ・ジョーンズというものを知っているかしら?」

「デイヴィ・ジョーンズ……」

 確か映画に出てきた悪役の名前だった気がするけど、それがどうというのか。

「私ね。彼を知っているの」

「え?」

「傲慢で、欲深くて、そして寂しい彼」

「……」

 一体、何を?

 頭の中を必死に回してみるが、どうやっても無理だった。ルーさんが言っている言葉に私はついていけなかった。

「どういう、ことです?」

「……そうね」

 戸惑い、困惑している自分に対してルーさんはゆっくり瞼を閉じると、パチンと指を弾いた様な音が聞こえ頭の中がすっきりしたような場面が移ると、私は辺りを見る。

 先程のような綺麗な喫茶店の風景に対して、私たちの周りには深い海のような風景が映る。

「ここは?」

「ここは、深い深い海の中。デイヴィ・ジョーンズの居場所よ」

 私がその場を見て驚いていると、彼女は小さな微笑を向けてくる。

「なぜ、このような場所に?」

「なぜって、それは、面白そうだからかしら?」

「……」

 ここで、やっと気づく。

 元よりこの喫茶店は喫茶店といえるものでなかった。

「けど、気になったの。あなたはなぜ、私やこの光景が見えるのかしら」

「……」

 ドクンドクンドクンドクン、

 心臓が高鳴る。汗が流れる。息が荒く、まるで深い海の底で無様にも酸素を求めるようなものだった。

 けれど足元から引っ張られるかのようにルーさんは私の顔を手で捉え、こういった。


「あなたの瞳も、私たちと同じ瞳の色よ」


 彼女の一言で私は絶望したように、ルーさんの顔を見続けた。

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