168話 遭遇

荒廃した世界を黙々と突き進んでいく。

崩れ落ちた建物、役目を失った街道に石畳だけが虚しく道を映していた。


そんな中、空を見上げ目を細める。


「…あれは」

「どうしたの?」


魔素が渦を巻き生き物のように禍々しく空一面を覆っていく。

そして、私達が向かう先に吸い込まれる様に流れ落ちていった。


「なんか嫌な感じ」


シスは渦が消えた方角へと視線を送る。


この先に何かがある。


「とりあえず進みましょうか」


初めて見る現象に疑問を抱きながら先に進む。

暫く進むと目当てのものはすぐに見えてきた。


高層階の建物の中にポツンと佇む洋館。

外の壁は風化で崩壊していた。

ただ異常な程、濃密な魔素が漂っている。


「入ってみましょうか」

「お宝はあるかなぁ?」


シスの表情には既に警戒の色はなく、瞳を輝かせている。


「また死にますよ」


無警戒で足を踏み入れる彼女に溜息が漏れてしまう。

学習能力がないのだろうか。


「なら、さっさと来なさいよ」


彼女は振り返ると、早く来いと手招きをするのだが、その背後に影が見えた。


「ッ!?」


咄嗟に縮地で距離を詰め、背後の影に一撃を放つ。


ガチンッ!


「ちょッ!?」


突き出した拳が何かに受け止められ、シスの叫びと共に爆風が舞う。


それは拳を受け止めた人物の赤髪を揺らし、


「あんた達だったんだ。驚かせないでくれる?」

「それはこっちのセリフですよ」


そこには長剣を構えたレベッカがいた。


「あたしが一番ビックリしてるんだけど?」


背後で起こった一瞬の攻防に振り返ったシスが呆れた様にレベッカを睨んでいる。


「ガーディアンが戻ってきたと思ったの。だから、先手必勝かなって」


剣を腰の鞘に戻したレベッカは、さも当然に笑って返してきた。


「それなら倒しましたよ」

「変ね?男達を追ってたはずだけど…」

「巻き込まれたのよ」


文字通り巻き添えで死んだシスが、不満げに私を睨みつけてきた。


…いや、俺は悪くないだろ。


「納得したわ」


レベッカはクスリと笑うと、ボロボロになった屋敷の玄関に向かい歩き始める。

そんな彼女を追い屋敷の中に入る。


エントランスの左右には二階へと繋がる階段が伸び、目の前には大広間が広がっていた。


「あたしの探し物はなかったけど、それなりに価値のある物が転がっているわ」

「やったぁ。お兄ちゃん、ここはあたしに任せてね」


シスは持参した大袋を広げると、館の奥へと消えていった。


「死んでも知りませんからね」

「…ふふ」


思わずこぼれた言葉にレベッカは笑いを漏らした。


「強さは感じないけど、あの子も化け物よね?」

「なぜ、そう思うのです?」

「だって一人で行かせてるじゃない」

「…はは」


それは彼女が死ねないからだ。

その点では、魔族とも違う化け物かもしれないが…。


「聞きたい事があるのですが」

「なにかしら?」

「ガーディアンは純血種ではないのです?」


あの男は純血種だと口走っていた。

だが、彼女は六芒星の純血種しか見た事がないと言ったのだ。


「半分はそうね」

「半分?」

「文献に残る純血種と外見は一致はしてる。だけど、魔力の出力も低く意識もない。一体なら、あたしでも倒せるのよ?」


…なるほど。

本来の力とは掛け離れてるのか。


「…嬉しそうね」


彼女は自然と笑みを浮かべていた私に呆れた眼差しを向ける。


「ええ、あんなに弱いのが純血種なら拍子抜けですから」

「はは、なら色違いは少しは楽しめるかもね」

「色違い?」


聴き慣れない言葉に首を傾げた。


「風の噂よ。純血種の中でも高位の存在を覚醒者と呼んでいたらしいわ」

「見た事はないんですよね?」

「ええ、もっと奥地ならいるかもね」


もっと奥地か…。

適当に稼いで遊んで飽きたら、東の樹海に行こうと思ってたけど、どうしようかな。


「強いんですよね?」

「生きていた時代なら、それこそ化け物のような存在だったんだろうね」

「まるで弱体化してるような言い草ですね」

「噂になるって事は、生きて帰ってきた目撃者がいるって事よ?」

「なるほど」


本物の化け物は噂にもならないという事か…。

となると、期待は出来ないな。


私は窓辺に立ち、外へ視線を向ける。


「…竜種でも殴りに行きますかね」

「ほんと魔族らしい大馬鹿ね」


思わず呟いた独り言にレベッカは笑うのだった。

 


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