126話 出会いと別れの繰り返し

名もなき街 廃墟二階


「さみぃな」


シャロンはガラスのない窓から差し込む月明かりを眺めながら呟いた。


「…カミラさんはギルドですか」

「冷たいやつだよなぁ」


彼女は壁に背をあずけて座ると足を組む。

そして、そのまま酒を煽り始めた。


「温まりますね」


私も葡萄酒を瓶のまま口に含む。

ここは歓楽街から離れている為、静かな夜が続いていた。

 

ベッドもない廃墟の一室。

壁にもたれ掛かり床に腰を下ろしているだけだ。


私達は寒さを凌ぐように、酒で暖を取っている。

最低な環境だが、不思議と嫌ではなかった。

それはきっと冒険者だからだろう。


「…なぁ」


静寂を裂くような声が響くとこちらを向く。


「…?」

「ハッキリ言えなかったけどよ…」


珍しく歯切れの悪い物言いに、思わず首を傾げた。

そして、何も言わずに言葉を待つ。


「俺はこの先の冒険にはついていけねぇ」

「…そうですか」

「明日からは別行動だ」


ギルドで、冗談混じりに話していた内容だ。

それが今、明確になったのだ。


「この家の修理費はどうするんです?」

「…あんだけ狩りゃ足りるだろ。金は明日取りに行っておくぜ」


彼女はグラスを揺らしながら答えた。


「…タダ働きですか」

「文句ならカミラに言うんだな」


悪びれもせずに笑う彼女に呆れながらも、小さく頷く。

もう一口葡萄酒を含むと、窓の外を見上げた。


「…明日からは一人ですか」

「悪りぃな。どう考えてもおまえの足を引っ張るのがわかっちまったんだよ」


黙って赤き月を眺める。

 

魔大陸をよく知る彼女の判断は正しいのだろう。

先に進めば進む程、守る機会が増えるのだろう。


そして、シャロンはそれを望まない。

それは正しい判断だ。


だけど、


…寂しいな。


そんな感情が湧いてくるのも確かだった。


「ここに帰ってくりゃ、一緒に酒は飲めるさ」


そんな私を見てか、軽口を叩く。


「…そうですね」


感情を悟られないように視線を逸らした。


「なんだ?寂しいのか?」


だが、からかうように聞いてきた。

私は鼻で笑い返すと、


「いえ、シャロンの胸を揉むチャンスがなくなると思いましてね」


彼女の仕草を真似するように、右手を開いて握る。


「ばーか、そんなチャンスは一生来ねぇよ」


その仕草を見たシャロンは楽しそうに笑っていた。


——ほら、胸くらいなら揉ましてやるから、付き合えよ


「…嘘つき」

「ん?」


あの言葉に丸め込まれて、強引な出会いが始まったのだ。

そして、勢いに流されて胸は揉めなかった。


「なんでもないですよ」


まあ、今となっては良い思い出だ。

そんな事を考えつつ残った酒を飲み干していく。


そして、気づけば瞼を閉じていた。

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