122話 意志の剣

魔導錬成


魔法技術の発展により、アルマ王国で生み出された魔道具である。


銀色の筒に詰められた赤黒い液体。

契約者の魔力と意志に反応して、どんな形にも姿を変えられる特性を持つ不思議な代物だ。


「これはね、成長する魔道具よ」

「強くなるって事です?」


奥の部屋に招かれた私は、カミラとテーブルを挟んで座っていた。

その上に置かれた小さな金属筒は、銀細工が施されている。


「ええ、魔族や魔物を殺すとね。私達と同じようにレベルが上がるらしいわ」


…魔族や魔物か。


「人を殺すとどうなるのです?」

「…ふふ」


極自然な疑問を口に出してみたが、彼女は何故か笑みを零す。


「何がおかしいのですか?」

「いえ、貴方はシャロンとは違いすぎるのねって」

「…はぁ」

「あの子はそんな事、微塵も考えないわ」


観察するような視線を送ってくる。


「…だから、こんな腐った世界に戻りたいなんて言えるのよ」


吐き捨てるように呟いてから、視線を逸らした。


「愚痴なら、あとで聞きますから」

「…そうね。…人を殺しても何も変化はないそうよ」


つまり公式に試したという事なのだろう。


「あと所有者が死ぬと合成が可能になるわ。私達は継承と呼ぶけどね」


彼女はテーブルの上の銀色の筒を揺らす。


「混ぜる事でレベルが上がるわ」

「便利な武器ですねぇ」


素直な感想を漏らすと、彼女は苦笑いで応える。


「ギルド職員らしい言い方をするなら、魔族や魔物に大きく劣る私達の希望よ。先人の屍を引き継いで、強力な武器を手にするの」


…なるほど。

育てた魔道具を継承して、次の世代に託すのか。


「この魔道具に名前はあるのです?」

「…意志の剣と呼ばれてるわ」


そして、私の瞳を真っ直ぐに見つめると口を開く。


「貴方に預けるのはこれよ」

「…ええ」


真剣な声に押されるようにして返事をした。


「…と言っても、駆け出しの冒険者に渡すのは新品かそれに近いものよ」


彼女は自分の魔道具を取り出す。


「私やシャロンのは、仲間の屍…」


そして小さく微笑むと言葉を繋いだ。

 

「…弱いくせに…馬鹿なやつら」


そんな呟きを聞いてしまい、どう反応するべきか分からず黙りこんでしまう。


「……」

「…今のは聞かなかった事にしてくれる?」

「…ええ」


沈黙が続く中、カミラは誤魔化すように微笑んだ。

そして、その手に持った銀色の筒を差し出す。

私は無言でそれを受け取った。


「それと私がいる理由は、シャロンが死んだ時の回収よ」

「…なるほど」

「あの子が死ぬような場所で、回収できるとは思わないけどね」


心底嫌そうな声で呟くと、ため息を一つ吐いてから立ち上がった。


「さあ、行きましょうか」


そう言って部屋を出る。

胸元に意志の剣をしまうと、彼女に続く。


「よう」


空になったジョッキをテーブルの上に重ねて、顔を赤くしたシャロンが手を上げる。


「貴方のお守りなんて、ほんと嫌になるわ」


カミラは肩を竦めてから答えた。

 

「…はは」


彼女は眉を寄せて睨むが、シャロンは気にせず愛想笑いを浮かべる。


「貴方達、行くわよ」

「あん?」

「どこにです?」


シャロンと顔を見合わせると、同時に首を傾げる。


「ギルド職員の権限で家を借りたのよ」

「「…家?」」

「…はぁ」


私達の答えに、カミラは心底面倒臭そうにため息を吐いた。


「冒険者が過密なこの街で駆け出しが泊まれるのは、大部屋で雑魚寝くらいでしょうね。私はね、個室とお風呂がついていないと嫌なの」

「「おおッ」」


勘のいい私達は思わず声を揃える。

そんな様子に呆れたカミラだが、嬉しそうに頬を緩めている。


「俺の部屋もあるのか?」

「私も個室です?個室なんです?」


二人揃って前のめりに質問する。


「ええ、ついてきなさい」


こうして私達はギルドを後にするのだった。

 

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