第41話 王女の疑問

部屋に差し込む光と朝を告げる鐘の音で、彼女は目覚めた。


「…頭痛がするわね」


初めて飲んだ酒に、完全に呑まれたのだ。

うろ覚えの記憶を辿る。


「おはようございます」


リリスは、いつもと変わらずだ。

私もいつもと変わらず、返した。


私にあれだけ言われても、変わらないのね。

スッキリしたはずの気持ちに、もやがかかる。


そして、いつも通り朝に弱すぎる彼女を起こして、私達は宿を出た。


対岸へ渡る船に乗り込む。


「馬車は、置いて行くのですか?」


貴族とは違った意味で、浮世離れした彼女が驚く。


「当たり前よ」


私は、またいつものように返すと、彼女を観察する。


…おかしいわ


対岸に着き、新しい馬車に乗る私達。


…そう、おかしいのよ


私はもう気にもしていないのに、リリスとの間を取り持とうとする彼女。


彼女の気のまわしに、いつものように返す。


…魔法陣に必死で、異質に気づかなかったのね。


最初に疑問が浮かんだのは、お母様の態度だったわ。

彼女を、崇拝しているような目で見ていたの。


また、いつものお母様の悪い癖かしら?

私はすぐにそれを忘れた。


でも、


——アリスさんを、連れて行きなさい


お母様の瞳の色は、変わってなかったわ。

お母様が崇拝する人?


…ありえないわ


私は御者の席で、うたた寝を始める彼女の横顔を見る。


でも、彼女を連れて行けとは、秘密を知られてもいいって事なのよ


——なぜ、傭兵の街へ向かうのですか?


なのに、彼女は何も聞かされていなかった。


…まるで、彼女がいれば…


私は、ありえないと口元を緩める。


そのだらしない寝相を眺める。


王族への畏怖や敬意はまるで、感じない。

丁寧な口調だが、感じられないのだ。


どうして私は、彼女の異質に気づかなかったのだろう?


エルフ語への深い造詣だって、おかしいのだ。

だけど、私は気にも留めなかった。

ただ便利な少女だと思ったのだ。


ソファーに横になり、だらしなく本を読む彼女を思い出す。


学院の訓練場で放った、上級魔法。


思い返せば、異質な事ばかりである。


私の答えを聞いたら、お母様はなんて言うのだろう。

やはり決して、答えてはくれないのだろうか。


希望祭の夜を思い出す。


あの幻想的な光の欠片。

あれは、本物だったの?


私は、まだその答えを知らない。


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