第11話 王宮へ

王宮


先導する黒髪の従者。

なぜか王妃は私と並び、他愛のない話をしながら、中心区の門をくぐった。


すれ違う使用人は昔と変わらず、ハーフエルフばかりだ。


そして、懐かしい厨房の前を通ると、私は思わず足を止める。


…獣人?


厨房の中には、獣人しか見当たらないのだ。


「どうしたのかしら?」

「いえ、獣人ばかりだと思いまして」


まるで距離感を感じられない王妃に答える。


「あら?珍しいのかしら?」

「…私は移民街で生まれ育ちましたから、意外だったのですよ」

「そうですか。彼らの作る料理は絶品ですよ」

「ああ、それは私にもわかります」


鼻が効く彼ら彼女らは、繊細な味の違いがわかるのだ。

移民街でも、繁盛している店は獣人の店だった。


時の流れを感じながら、また歩き出す。


この先は、庭園でしたね。


自然光が溢れるその先に進む。


だが、


「…あれ?」


私はまた足を止め、思わず呟く。


遠い昔の友人が育てた庭園は、その姿を消し、中央に噴水の置かれた広場になっていたのだ。


思わず、変わり果てた場所へと踏み出す。


「あの、」

「いいのです」


そちらではないです!と言おうとした従者の言葉を、王妃は遮った。


私は、探すようにいつもの場所へ足を進める。


そこは、青で彩られた世界だった。


記憶が間違ってなければ…。


そう思い、進んだ場所には一輪の薔薇の姿。


「…枯れましたか」


誰に言うわけでもなく呟く。


「…珍しいものでもありました?」

「ええ、ああ、すみません」


後ろからかけられた声に、謝る。


「いえ、自由に見て構いませんわ」


王妃は、優しく微笑んだ。


「もう大丈夫です」

「そうですか」


ではと言う声に導かれつて、先導する従者について行く。


予想通り目的地は、西区であった。

それも懐かしい階に、懐かしい部屋の横だ。


「…少し待ってて下さいね」


王妃はそう言うと、懐かしい部屋の中へと入る。


「こちらが、王女殿下のお部屋ですか?」

「はい。王妃様はお優しい方ですが、殿下は気難しい方ですので、気をつけて下さいね?」


——あんたクビよ

——ソフィア、そなたにそのような権限はないのだぞ


気難しいと聞き、嫌な記憶が蘇る。


「…まさか、初日からクビ宣言される事なんてないですよね?」

「…今まで何人もの教師が、去りました」


淡々と答える眼鏡の女性。


…地雷確定ですか。


それを裏付けるかのように、部屋の中から言い争うような声が聞こえてくるのだった。


……

………


暫くして、扉が開く。

少し疲れた顔の王妃の姿。


「…説得してきましたわ」


説得…既に嫌な予感は限界突破しそうである。


そんな私の手を彼女は握ると、


「あの子とお友達になって下さいね…決して見捨てないで下さい」


教育係なのでは?と疑問を浮かべつつ、


「…お任せ下さい」


銀貨20枚という言葉が、それを消し去る。


教師になれというのは、筆記試験で現実を思い知らされたのだ。


だが、友達になれというのなら、


——クロくん、人見知りだからなー


うるさいですよ。


遠い昔の声にツッコミを入れると、笑顔で王妃の握る手に力を込める。


そして、懐かしい部屋の扉を開けた。

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