172話 女剣士と獣人と…
「ねぇ、クロくん。ボクと結婚してよ」
子供のような無邪気な笑みで、彼女は言った。
「今年聞いた中で、一番面白い冗談ですね」
アイリスの横に座るルルは、お任せ定食をつまみながら、乾いた笑いを零す。
場所は、国民街の一画にある馴染みの定食屋。
…
……
………
数刻前
「負けちゃったなぁ」と呟いた彼女と共に、中心区を歩いている時だった。
「名無しさんではないですかー?」
演技がかったその声の主は、私とアイリスを見て、面白いものを見つけたという顔を隠そうとしない。
「クロくん?」
アイリスは、獣人の少女を見て、誰?と視線を送ってきた。
「…クロくん?」
ルルは、ジト目で私を見つめる。
「なにが言いたいんです?」
「…人見知りの名無しさんが、女の人と歩いてるのが珍しいと、ルルは怪しんだのです」
「あはは、クロくん、人見知りなとこは変わってないんだねー」
私を囲んで面識のない二人が、妙な所で意見を一致させた。
「昔の友人ですよ」
「フレイラです。あ、でもクロくんの友達なら、アイリスの方が良いかな?」
「宮廷料理人のルルです。名無しさんとは、腐れ縁なのです」
人物は3人しかいないのに、それ以上の名前が飛び交う不思議な光景だ。
「名無しさんは、仕事中なのです?」
「いや、アイリスを部屋に送るところですよ」
ルルの疑問に、私は答える。
「ルルちゃんは、休憩中なのかな?」
「これから、お昼を食べようと思ったのです」
昔と変わらず、自然と距離を詰めるアイリス。
ルルは、慣れ慣れしいなという表情を浮かべていた。
ただ、嫌味のない彼女に、簡単に間合いに踏み込まれると、
「ボクもお腹空いたから、一緒に食べよー」
クロくんも食べるよね?と、半ば決定事項である。
そして、良い店知ってるんだーと、ルルの手を引くアイリス。
私は、またいつもの店ですかと、心の中で呟くのであった。
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