170話 外伝 回想クリスティーナ王女

王宮の中心区

会議室に、今日もそうそうたる顔ぶれが集まっていた。


国王に結論を伝える前段階のその事前会議には、宮中伯達が中心となり、兄上である第一王子と第一王女である私が、席を並べる。


第二王子は、今日も欠席であった。


お兄様は、王国の行末に興味がないのであろうな。


私は、空席となっている第二王子の席を眺める。

のんびりとした性格のお兄様は、昔から何かを諦めているような生き方だった。


第一王子である兄上を見る。

燃えるような赤髪。

人族の特徴を強く引き継ぐ顔立ちには、獣人のような鋭さも混じっている。


外見通りの豪胆な性格であり、まさに王位継承権第一位と、誰もが納得するような器なのだ。


お兄様は兄上の影である事に、諦めたのかもしれぬな。


そんな事を考えている中、会議は始まった。


「では、今日の本題ですが、ガレオン子爵の軍が砂漠の端、星落としの地に軍を集めているようです」


星落としの地…3年前に瓦礫の山を占領したガレオン子爵の軍が、要塞として再構築した場所だ。


「その意図は、読めるのか?」


兄上が、地図に指し示された場所を見て言う。


「砂漠の国に対する別ルートからの進行…または、こちらへの進軍でしょうか」


説明する宮中伯の言葉に、会議室には緊張が走った。


「砂漠の国を諦め、こちらへ来るかもしれぬのだな?」

「3年かけて、あの地を要塞として復興させたようです」


私の言葉に、宮中伯はガレオン子爵の軍が、兵站を繋げたと、うなづいた。


「迎え撃つ戦略は?報告だと、敵には化け物が2人いるのだろ?」


兄上は顔色を変えず、宮中伯に問いかける。


「この3年で、平時の動員戦力を1%から4%に上げました故…非常事態宣言を出し、予備戦力を投入すれば10%は可能かと」


王都の人口が約15万人…最大で、1万5千ほどの上級兵士の投入が可能だと説明する。


「ガレオン子爵の軍は、千から二千であったな?」

「その内、500が精鋭の騎士団と報告を受けています」

「我らの騎士団は二千だ。敵に化け物が2人いようとも問題ないな」


勝ったなと、満足そうに兄上は、獰猛な笑みを浮かべた。


だが…本物のバケモノを見た事がある私は、


「兄上、バケモノを侮ってはならぬぞ」

「…おまえが弱気になるとは、珍しいな」

「私は、本物のバケモノを見た事があるのだ。あれは人の手で、どうする事もできぬ」


私の言葉に、兄上は鼻で笑うように、


「では、どうする?降伏するのか?」


そんな気など微塵もないような口調で、私に問いかけた。


「私も、戦場に出よう」

「…クリスティーナ」


兄上は、私の言葉に困ったように額を抑え、妹に見せる顔で呟く。


「おまえの言うバケモノが、なんなのかは知らないが、王女一人戦場に出た所で、何が変わるんだ?」

「…お言葉ですが、王女殿下には、騎士が一人もおりませぬ故」


…私に、騎士はいる。


だが、その騎士らしからぬ姿から、言い出せなかった。

兄上や宮中伯達が、私に何を求めているか理解していたから、言い出せなかった。


それでも、


「ならば、なぜ私は、この場に呼ばれているのだ?」


戦場に呼ぶ気がないのなら、呼ぶ必要はないと受け取られかねない言葉。

だが、確認せずにはいられなかったのだ。


私の言葉に、兄上は困ったように溜息をつきながら、


「そりゃ、戦争になったら、俺や父上は戦場に出る。王都で、先頭に立つ王族が必要だろ?」


士気高揚の為の神輿。

象徴としての王族。


そんな現実に、私は押し殺されていた。

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