121話 王女殿下と騎士

闘技場からの帰り道


「ふむ。そういう種族特徴も、あるものなのだな」


王女殿下特有の感覚なのか、ハーフエルフの王族の感覚なのか、私が男であると告げた後の感想である。


「だが、見た目が女性であれば、側仕えの騎士としては問題なかろう」

「王女殿下の騎士は、何人いるのです?」


まだ騎士になるとも返事をしていないのだが、職場の環境を確認してみる。


「私に、騎士はいないぞ。王宮の中で必要なかったというのもあるのだが、騎士物語のようにこの者だと思った騎士達で、騎士団を作りたくてな」


威厳に満ち溢れていた王女殿下は、その影もなく、子供のように目を輝かせて語る。


「私が、その一人というわけですか」

「そなたの闘技場での戦いを見て、確信に変わったのだ」


騎士というイメージを思い浮かべて、女騎士の顔が浮かんだ。


「私は、私の思い描く騎士の忠誠心を、持ち合わせていないように思いますよ?」

「騎士が騎士たるは主の器だと、私は考えるな」


要するに主人に恥をかかせない態度は、主人の器と共に、自然と身につくという事であろうか?


王女殿下の騎士か…

奴隷の身からの立身としては、破格の成り上がりだろう。


「魅力的な報酬だと思いますが、考えさせて下さい」

「ああ、成功報酬であるからな。ここから王都エルムまで、お互いを知るのに十分な時間はあるだろう」


そして、また歩みを進める。


「王都エルムとは、どのような都市なのです?」

「外観から言えば、6重の城壁に囲まれた都市だ。数百年の歴史の中で、少しづつ拡張していって、この街とは比べ物にならない、広さと賑わいがあるぞ」


懐かしそうに、両手を広げる王女殿下。


「娯楽も豊富なのでしょうね」

「我らは、外の世界に出ない種族であるからな。きっと、気に入るであろう」


まだ見ぬ巨大都市に期待を膨らまし、そこに住む未来を想像する。


そして、何か忘れている事に、気づくのであった。


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