119話 転職の誘い 後編

「食いっぱぐれない仕事が、したかったんですよね?」

「えぇ、そうだけどー」


闘技場での一幕から、マキナのお墨付きをもらいクロードに押し切られる形で、私は王女殿下の依頼を受ける事になっていた。


同時に受付嬢の職を辞する事になる為、マキナに後任を紹介する。


ちょうど闘技場のお祭り騒ぎに、顔を出していた情報屋のアンナだ。


「傭兵ギルドの受付嬢って、今まで何人も辞めてる過酷な職場なんだよ!?」


マキナの前だというのに、露骨に嫌そうな顔をするアンナ。


「その点は、私が業務改善をしたので大丈夫ですよ。アンナはこの街に関して、私よりずっと詳しいから適任です」

「うーん」

「私の仕事、羨ましそうに言ってたじゃないですか」

「それは、酒の勢いというか…言葉のあやというか」


悩むアンナに私は、


「私はできると信じてますよ」

「本当に?」

「はい。私は、私の目を信じてますから」


という事で、あとは宜しくお願いしますと、マキナに言い残すのであった。


……

………


マキナとアンナを残し、闘技場からの帰り道。

私とクロードと王女殿下は、思い思いに歩いていた。


「報酬の件じゃが」

「聞かせるがよい」


唐突に切り出したクロードの一言に、王女殿下は答える。


「王都エルムへの居住と、王宮への永久就職を願う」


クロードはいつになく真剣な表情で、王女殿下を見つめた。


「そなたは、罪人流しの村出身と言ったな?」

「フィーナ、いや、儂の祖父の代の話のようじゃ」


フィーナとクロードの関係性を説明すると、ややこしくなるのか、クロードはフィーナの代わりに答えている。


「大罪を犯した者は、都市から追放され、末代まで二度と戻れぬ法があるのは、私も知っている」

「そうじゃ…」

「私が身元を保証し、必ずや叶えよう」


その言葉を聞き、クロードは満足そうにそうかと呟き、消えた。


「あの者も、かなりの魔導の使い手であろうか?」

「話すと長いですが、私が見た中で随一ですよ」


少し前を歩く、王女殿下。

歩調の合わない二人の距離は、縮まらない。


「そなたは護衛依頼に、乗り気ではないのか?」

「つい先程まで、休日を楽しんでいたのですよ?それが気づけば、傭兵に転職しているのです」


珍しく乗り気なクロードの勢いに、流されてである。


「巻き込んで、すまない」

「……」


なんて返せばいいか、言葉に詰まっていると、


「今度は問題ないとは、言ってくれないのだな?」


悪戯っ子のような笑みを浮かべる王女殿下に、こんな人生も悪くないかと思うのであった。

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