100話 外伝 王女と剣士

ひきこもりエルフの都市国家


その王宮の一角に、騎士達の訓練場がある。


もっとも、魔法の才能に秀でるエルフの特性に漏れず、騎士達は剣を使うより、中距離からの魔法の訓練を主としていた。


そして、ハーフエルフと唯一の人族が相対している。

ハーフエルフの騎士は20人で隊列を組む中、白髪の女剣士はただ一人である。


「これは随分、多勢に無勢というものであるな」


訓練を見学している王女殿下が、独り言を漏らす。

後ろに控えている侍従は、その独り言にも相槌を返していた。


そして、ハーフエルフの騎士がそれぞれ呪文を唱えると、女剣士の姿が消えた。


いや、消えたと思うくらい素早く、次に見えたのは吹き飛ばされたハーフエルフの騎士達の姿であった。


「アルマ王国の人族とは、皆これ程のものなのか?」


このような一騎当千の猛者ばかりならば、なす術もなく我が国は蹂躙されるであろう。


そんな嫌な予想を胸に、白髪の剣士へと歩み寄る。


「いえ、わたしのようなのは勇者さんとエリー様くらいです」

「それでも、2人もいるのだな」


フレイラが事前会議で語った、サンドワーム討伐の話を思い出す。


氷海と呼ばれるアルマ王国王宮魔導師が、サンドワームを氷漬けにして足を止め、勇者と呼ばれる者とフレイラが剣技を叩き込んで、死闘の末、仕留めたらしい。


「それ程の腕を持ちながら、なぜ我が国に来たのだ?」

「…人を探しに旅立ちまして…そしたら、その路銀が尽きたというか」


アルマ王国のお金が使えないなんて、考えていなかったのですと、彼女は恥ずかしそうに頬をかく。


正確には流通していない硬貨の為、純度がわからず断られたというのが正しいのだが、彼女は理解する事を手放していた。


「人探しであるか?」


外の世界との交流が滅多にないハーフエルフは、二極端である。

この世界に満足する者と、好奇心旺盛な者だ。


私は後者であった。

先程の非常識な戦闘力を感じさせない、女性らしい反応を見せるフレイラに興味が湧く。


「家族か?友人か?恋人か?」


王女殿下…と、後ろから侍従のため息が聞こえるが気にしない。


「え〜と、なんていうか…」

「その反応は、想い人であろうか?聞かせるがよい」

「いや、想い人っていうか…」


存外外れてもいないようで、フレイラの顔が赤くなる。


「私の力を使って、探し出す事ができるかもしれぬぞ?」

「う〜ん、小さい頃、一緒に過ごしたんですよね」


フレイラが、諦めたように語り出す。


「わたしよりも、ずっと剣の才能があって…敵わなかったなぁ」

「…ほぅ」


レベル差でもない限り、攻撃10より才能があるはずがないのだ。

本で読む、恋は盲目というものであろうか。


「その後、別々の道に進んだのですけどね。何年か経って、また出会ったんですよ」

「出会ったのに探しているというのは、その者はこちらに旅立ったのか?」

「星落としの日…でしたっけ?」


彼女の物語を、吟遊詩人の詩を想像して思い描いていると、急に現実的な言葉が出てきた。


「あの日、彼もわたしもあの場にいました。わたしは運よく師匠と逃げれましたけど、彼はサンドワームに囲まれていて…」


無力だった自分を思い出したのか、フレイラは唇を噛み締め、拳を握る。


「あのサンドワームも砦も、彼が一人でやったみたいですよ」


そして、事前会議で語られぬ事のなかった、衝撃の言葉が告げられた。


「あり得ぬであろう」

「彼でなければ、わたしもそう思います」

「それで、その者はこちら側へと来ているのだな?」


私の言葉に、フレイラはうなづいた。


「西の森へと入って行ったのが、最後の姿だそうです」

「そうか」


あの砦から西というと、ここから南の大森林であろうか。


あの広大な大森林で、見つかるはずもないなと考えていると、


「わたしはあの時から、自分を限界まで鍛えました。彼に会ったら、追いついたか試したいんです」


フレイラはこちらに笑顔を向けると、剣の鞘を叩いた。


「その為に、ここで路銀を稼がせて貰いますね。わたしは自由な剣士ですから」


そう付け加えて。

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