第三章 傭兵♂と王女編
99話 外伝 ひきこもりエルフ
新ゼロス暦108年
旧ゼロス同盟の東の端、砂漠に面した都市国家は一部では、とても有名であった。
ひきこもりエルフの都市国家。
都市の名前よりも有名な呼び名は、その性質を適切に表している。
ハーフエルフで構成されたその国家は、旧ゼロス同盟の戦乱とは無関係とばかりに、その城門を固く閉ざし、出てこなかったからだ。
旧ゼロス同盟の都市国家群も、ひきこもりエルフの都市国家の先にある砂漠の国と軍事衝突するリスクを考え、手を出す事もなかった。
こうして、数多の思惑からひきこもりエルフはひきこもりエルフとして、100年余り語り継がれてきたのだが、
「アルマ王国が、砂漠への侵攻を本格化させてきたのだな?」
白銀の長い髪を揺らしながら、王宮の一角を早足で歩くハーフエルフの女は、付き従えた従者に声をかける。
「はい、王女殿下。ガレオン子爵率いる軍が、砂漠の中央へと進軍中との事です」
「やつら、あの砂漠の中から、王都を見つけたのか」
「ええ、そのようで…」
侍従の言葉に王女は足を止め、考える。
「だが、王都はサンドワームの巣になっていると聞く。人の身で進む事は、叶うまい」
ひきこもりエルフと呼ばれる我が都市国家と同じように、砂漠の国も外への野心を持たぬ国と、言い伝えられている。
だからこそ、双方は数百年前に結んだ不可侵条約を今でも守り、砂の王達に守られし王都と、わずかな記述が残るのみである。
「2年前の星落としの日の事もあります故」
「星落としの日か…」
王女は自室で偶然目撃した、その日の事を思い出していた。
南東の方角に、空から降り注ぐ巨大な炎の塊。
大気の振動と、遅れて届く轟音。
騒然とした王宮が、滅多に外に出す事のない斥候を、すぐに南東の砂漠へと派遣したのだ。
そして、報告には砂の王と呼ばれるサンドワームの死骸と砦の残骸、アルマ王国の兵士達。
あれから2年、国王と宮中伯達は、様々な方針を検討してきたのだろう。
今日、国王達の政治に自分が呼ばれたのは、その為だと考える。
自分が王であったならと、思案を巡らせながら王宮を進むと、目的の部屋へと着いた。
「ここまででよい」
侍従を下がらせ、扉を開ける。
部屋の中には、見慣れた宮中伯の面々が椅子に座り、見慣れぬ人族の女が立っていた。
薄い水色が混じった、白髪の女。
鎧に身を包んでいるが、歳は私と変わらぬ10代後半のように見える。
星落としの日から、人族が我が都市国家に辿り着くのも、珍しくはなくなったのだ。
有能であれば、雇い入れていると聞くのだから、その一環であろう。
推察を終え、空席となっている国王の席の横へと座る。
「王女殿下もお揃いになりましたので、国王陛下がお越しになる前に、事前会議を始めましょう」
宮中伯の一人が、口を開く。
そして、事前会議が進行した。
機密文書の保管庫から、引っ張り出してきたのであろう砂漠の地図を机に広げ、砂漠の国の王都の位置を示し、ガレオン子爵の軍の予想進路が示される。
そして、砂漠の国が陥落した場合の予想進路に、我が国家が収まる。
「サンドワームの巣を抜けられると、確信はあるのでしょうか?」
宮中伯の一人が、疑問を口にした。
それもそのはず、砂の王と呼ばれるサンドワームを見た者は、ここにはいないが、過去の文献にも吟遊詩人の歌にも、その規格外の姿が語られているのだ。
星落としの日に、そのサンドワームの死骸を確認したとあるが、砂漠の王都はそのサンドワームで囲まれていると聞く。
「その点については、この者、フレイラから。ガレオン子爵の軍で、傭兵をしていたようです」
進行の宮中伯が、先程から立っている白髪の女を紹介する。
「ええと…」
このような場が慣れていないのか、一同の視線を一身に受けた彼女は、右手で頬をかきながら苦笑いを浮かべていた。
「サンドワームを狩った話をして下さい」
「狩ったと言っても、ボク…じゃなくて、わたしだけではないです。勇者さんとエリー様がいましたから」
なんとも要領を得ない話から、一同は疑念を浮かべた。
だが、宮中伯の次の言葉で、真剣に話を聞く気になるのであった。
「彼女のステータスを確認しましたが、レベル35、攻撃防御の才能は10です」
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