第98話 傭兵ギルドと仕事
「さて、あのバカから、どう案内された?」
カウンターに番号を呼ばれた私は、問いかけられる。
ルル達は先程の椅子で、留守番だ。
「住む場所と仕事を紹介して欲しいと頼みましたら、こちらにと」
「そうか、そうか」
口元を歪め笑顔を見せるが、目がまったく笑っていない。
「住む家は、空き家を自分で見つけて勝手に住めとか、仕事先に紹介してもらえとは、言わなかったのだな?」
「え、ええ」
不気味な笑顔に応える私の顔は、引きつっていた。
「仕事はこの辺りの店に行って自分で探すか、腕に自信があるなら傭兵ギルドに行けとも言わなかったのだな?」
「え、ええ」
どうやらその二言で済む事を、領主様は丸投げしたらしい。
「あのバカは何度同じ事を言わせれば、覚えるのだ」
独り言のように呟く彼女に、
「それで、その2つをここで紹介していただく事は可能ですか?」
「…ふむ」
私の言葉を受け止めた彼女は、私とルル達を観察する。
「今すぐ金が欲しくて稼ぎたいなら、娼館だな。説明はいるか?」
「いえ、娼館で働く気も、必要性もありません」
「そうか」
そして、彼女はまた考え込んだ。
無愛想な口ぶりだが、人は良いらしい。
「傭兵の仕事というのは?」
興味本位に聞いてみると、
「腕に自信があるのかもしれないが、少女を送ったとなっては、私の信用に関わる」
屈強な傭兵を希望する依頼主に送られてきた、傭兵と名乗る少女。
確かに、信用に関わるな。
「過去に、どのような仕事をした事があるのだ?」
「私は盗賊の仕事と、街に住んでいた時は錬金術師様の店で番頭をしてました。あと貴族様のメイドですかね」
番頭と言葉は少し盛ったが、店の帳簿から税金の支払いと、製造以外は怠惰なご主人様の変わりに全てやっていたのだ。
言葉は少し盛っているが…。
「ほぅ、事務ができるのか」
「ええ、多少は」
私の言葉にまた考え込むエルフ。
「ここは今、私一人で回していてな。事務ができるなら働いてみるか?」
「雇用条件の確認をしても、宜しいです?」
「いいぞ」
私の言葉に満足したのか、彼女は早口で雇用条件を述べた。
試用期間有り。
月給は私が銀貨20枚、ルルとフィーナは雑用として銀貨5枚。
適正なしと判断した場合、即時解雇。
住居は傭兵ギルドの2階で個室。
家具と魔道具のシャワー完備。
悪くない条件ですね。
月に銀貨5枚あれば食堂で十分な食事を取れそうだったので、生きていくには困りそうもなかった。
むしろ、好条件なのかもしれない。
「その条件で、お願いします」
「ああ、宜しくな。私の名はマキナだ」
「名無しです」
右手を差し出す彼女の手を握り、答える。
「働くのに名無しはないな。名を決めろ」
可愛らしい苦笑いを見せるマキナ。
名前か…。
新しい職場となるカウンターを見つめる。
何気なく交易都市クーヨンを、エリー様の顔を思い出した。
「…アリスです」
懐かしい名前を口にすると、
「宜しくアリス。あとで制服を持ってこよう」
きっと似合うだろうと告げる彼女の言葉に、エリー様の面影を見て、嫌な予感がするのであった。
☆マキナのキャラクターイメージ
https://kakuyomu.jp/users/siina12345of/news/16817139558740751955
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