第84話 討伐軍

…お主ら囲まれておるぞ


クロードの言葉を聞き、私は残り少ない魔力を放出した。


…カチリ…


魔力の波が、近くに1人…。

そして、少し離れた場所に無数の反応を捉える。


私のオリジナル魔法は、本当に燃費の悪いものばかりですね。

クロードの魔法を無効化する為にも、随分消耗させられました。


魔力を込めた目で、辺りを見渡す。

魔素は、かなり薄くなっていた。


「…ルル、そこにいますか?」


私は近くの反応に、声をかける。


「…終わったのですか?」


茂みの奥から、怯えた顔の獣人の少女が現れた。


「いつから、見てました?」

「巨大な雷が落ちて…戻ってきたら、あの子の腕が飛んでたのです。ルルは嫌な予感がしたから、隠れたのです」

「賢明な判断ですね」


ルルは倒れたフィーナを、心配そうに見ている。


「事情は後で話しますが、この先にいる無数の何かに囲まれているようです。見えますか?」


その言葉を聞き、ルルは器用に木に登ると消えた。


そして、先程より顔色を悪くして戻ってきた少女は、


「…騎士団です。数百の騎士に囲まれてます」


嫌な事を思い出したのか、足が震えている。


「…そうですか」


どこで足が付いたかと考えるには、心当たりがありすぎる。

ここの盗賊団は、私を含めやりすぎたのだろう。


戦うには…

私の魔力残量が、少なすぎる…


クロードが魔素を大量消費して、魔法を連発したせいで、この辺りの魔素も薄い…


ルルと、気を失っているフィーナを守りながらでは、不安材料が多すぎますね。


そう私が考え込んでいると、


「でも、名無しさんなら、負けませんよね?」


少し表情を明るくしたルルが言った。


「…二人を守りながらだと厳しいですね。逃げますよ。私はフィーナを担ぐから、ルルは荷物をまとめてください」


そう告げると、建てたばかりなのに穴が空いた家へと向かう。


いつでも対応できるように、旅袋と巨大なリュックはそのままで置いてあるのだ。


「…ルルは、足手まといですか?」


旅袋を担ぎ、フィーナを担ごうとした所でルルが呟いた。


「これから、また森の中を旅行ですよ。ルルがいないと、私は飢え死ぬかもしれません…。ルルがいないと、ぐるぐる回ってここに戻ってきてしまうかもしれません…」

「…名無しさんは、不器用ですからね」

「私を見捨てませんよね?」


芝居掛かったオーバーアクションで、ルルに笑顔が戻る。


「では、行きましょうか」


…カチリ…


残り少ない魔力と、薄い魔素を降り注ぎ3人の身体と荷物が周りの景色と同化する。


燃費の悪いオリジナル魔法だ。

戦闘で使うには、実用的ではない欠陥魔法。


「なんですか?これは?」


景色と同化した手を振り回し、不思議そうにルルは見ていた。


「光学迷彩ですよ。ゆっくり動いてくださいね」

「こうがくめいさい?名無しさんは時々、不思議な言葉を使います」


あくまでも、見えにくくする欠陥魔法だ。


私達は、森の隙間へと消えた。

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