第75話 三流盗賊

「…最悪です」


ルルは言った。


辺りには血だまりと、幾人もの男の亡骸が転がっている。


場所は、森を抜けた先の小さな村。

女子供は悲鳴を上げ、抵抗の意思を無くした男達は震えている。


その恐怖の対象は、俺に向けられていた。


……

………


数十分前


ルルを先頭に、森を抜けた俺達は小さな村を見つけていた。


そして、村の門の前に立つ男二人に、


「食料と金を出せ」


俺は初めて、盗賊の仕事をしていた。


「…お嬢ちゃん、難民かい?」


黒いローブをまとった背丈の低い俺を、少女と認識したらしい。


赤く染まった奴隷紋を見ても反応しない事から、これはアルマ王国独特のものだろうか。


髪を短くして、男の服を着ててもこれか…。


イラっとして、


「二度は言わない。死にたくなければ、食料と金を出せ」

「あのな、お嬢ちゃん。難民で困ってるのはわかるが、それはできないんだよ」

「お嬢ちゃんの顔なら、身売りするのがいいんじゃないか?行商人がたまに来るからさ」


二人の男は、何度もお嬢ちゃんと口にする。


黙れよ…。


力を手に入れてから…。

自由を手に入れてから…。


俺は今まで我慢してきた分、我慢しなくなったのかもしれない。


二人を剣で斬り捨てると、村に入る。

ルルの表情は、見えない。


断末魔を聞いた村人が、武器を手に寄ってくる。

歯向かう者がいなくなるまで、斬り捨てた。


そして、ルルが一言、


「…最悪です」

「そう言われてもな。これが盗賊のやり方だろ?」


剣の血を落とし、鞘に収める。


「名無しさんがやったのは、畑を根こそぎ取る三流のやり方です」


行商人と違って、村は安定収入になる。

生かさず殺さずが、一流だとルルは言う。


「そう言われても盗賊の仕事は、これが初めてなんでね」

「次は、上手くやってくださいね」


彼女は呆れたように言うと、


「わかりましたか?この盗賊さんは、加減が効きません。早く食料と少しのお金を用意してください」


そう村人に告げるのだった。


……

………


「これが、この辺りの銅貨か」


村人から奪った銅貨を1枚手に取る。

価値がわからないが、それが60枚あった。


「これ少なくないか?」

「あんな小さな村ですし、今は使う場所がないですよ」


金貨や銀貨を平然と使う、規格外が主人の生活に慣れていた俺は、価値観がズレていたらしい。


「それにしても、俺達の見た目は、盗賊には向かないみたいだな」

「そうですね。でも、次は上手くやってくださいね」


呆れ顔のルルと共に、街道に向かって進む。

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