第73話 獣人と旅立ち

次の日


俺はルルと共に、親分の元へ向かった。


「急で悪いが、旅に出る」

「そうかい。まあ、気をつけてな」


まるで、気にしていないかのように親分は答えた。


「それより、その服と髪型似合ってるぜ」


昨夜ルルに、ショートカットに切ってもらっていた。

服とローブは、親分から貰ったものだ。


「ルルも連れて行く」

「そいつは肉が、恋しくなるな」

「…悪いな」

「気にするな。欲しいものは、力で奪い取るだけだ」


そう告げると同時に、親分は剣を抜きながら、なぎ払うように踏み込んできた。


前に相対した女騎士とは、比較にならないくらい、その踏み込みは早い。

だが、俺にはゆっくりと感じられた。


最小限の動きで、剣を躱す。


「奪えそうか?」

「…バケモノかよ。その腕なら、ルルを預けてやる」


剣を鞘に収めた親分に、今度こそ見送られた。


「親分をあんな簡単にあしらうなんて、やっぱりバケモノなんですね」


集落の外に出て、横を歩くルルに感心される。

その背中には、身体の3倍はあるリュックが背負られていた。


「それで、親分の次はモヒカンか?」


俺達の前には、赤髪と青髪のモヒカンが立っていた。


「噂なんて、すぐに回るんだよ」


青髪のモヒカンが、答える。


こんな小さな集落だ。

朝から二人分の旅支度をしていれば、そうなのだろう。


「おい、ルル!」


赤髪のモヒカンは、茶色のローブをルルに投げつける。


「他の土地じゃ、獣人なんてどんな扱いされるかわからねぇ。このローブで、耳を隠しとけ」


投げつけられたローブを手に、ルルは呆然としていた。


「名無しは出て行け!だけど、ルルは置いていけ!」


青髪のモヒカンが、剣を取り叫ぶ。


「う〜ん、親分が負けた相手ですよ?」

「「親分が!?」」


ルルの言葉に、モヒカン共の声がかぶる。


「…通っていいか?」

「ああ、親分が…」


確認するも、青髪の答えはあやふやだった。


「おい!名無し!…頼んだぞ」


後ろから、赤髪のモヒカンに声をかけられる。

俺は手を挙げて返した。


追い出そうとしたやつに頼まれて、殺そうとしたやつと共に歩く。


人間というのは時に短絡的で、本当にめんどくさいな。

ただ、悪くはないか…。


横で茶色のローブを手に、嬉しそうに歩くルルを見て思う。


「おまえ、意外と好かれてたんじゃないか?」

「…そうみたいですね」

「あそこに戻りたいか?」


返す気はないが、他人の心を縛る術がない。


「親分を子供扱いする人に、必要とされてます。ルルは今、この案が良いと思ってます」

「あとになって、またあの時はってなるかもな」


ルルを、からかう。


「ルルはもう諦めません。それに、その時は助けてくれますよね?」


からかったつもりが、最大限の笑顔で返された。

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