第56話 奴隷市場 改稿

奴隷市場


それは外周城壁の中に存在した。

商品の供給源は、傭兵が拐ってくる砂漠の民である。


黒曜石のような髪と夜空に浮かぶ星々のような碧眼であり、褐色の肌が神秘性を感じさせていた。

この都市の特産品である。


「…とは言っても町や村からの調達では安定供給が難しいわよね?だから、繁殖させてるの」


奴隷市場の奥に堅牢で巨大な建物が見えいた。

それが何かという答えである。


…マリオン達が奴隷を物扱いするのは、これが原因か。


——人間を繁殖


そんな言葉に嫌悪感を抱く俺は、まだ壊れていないのか?

それとも、この国の常識に馴染んでいないだけなのだろうか。


俺の横ではリナが怯えた表情を浮かべながら歩いている。

その視界には、商品として陳列された同族の姿。

リナの瞳に希望の光はない。


「どの子が欲しい?」


マリオンは薄着一枚で並べられている商品を指差す。


「…リナは売らないですよ?」

「気に入っているなら良いわ」


その言葉を聞き、黒髪の少女は胸をホッと撫で下ろしたように見えた。


…これで少しは懐くと良いな。

そんな考えが頭を過ぎる俺は、やはり屑なのだろう。


「あちらも見てみましょうか」


他にも奴隷市場はいくつかあった。

どれも広大な平屋の中にいくつかのステージがあり、商品を陳列しているのだ。


ただこの奴隷市場は高級店のようで、他の市場と比べ規模は小さいが品質の良い者を揃えているようだった。

身分確かな者しか入れない為、あまり人とすれ違わない。


俺達の周りには女騎士と数名の騎士達が付き添っていて、その後ろには十数人の騎士が続いている。


だからだろうか。

前方から歩いて来る二人の女性に自然と目が止まった。


燃えるような赤髪の女と薄い蒼髪の少女。

そんな二人組だった。


どこか懐かしい風貌に、目を奪われる。

あと数歩という距離まで近づいた。


青髪の少女の首筋には、奴隷の証が刻まれている。


…まさか、こんな場所にいるはずがないよな。


そうは思うが、視線が外れない。

そんな俺を他所に彼女達は通り過ぎようとしていた。


「……」


青髪の少女と視線が交わる。


「……」

「……」


だが、何事もなかったように通り過ぎるのだった。


「…気のせいか」

「…どうしたのかしら?」


立ち止まった俺に、マリオンも視線を向けたようだった。


「…いえ、何でもありません」


あれから、二年近く経っただろうか。

身長も顔つきも、記憶より少し大人びている少女に確信が持てなかった。


…他人の空似で、恥はかきたくないな。


そう思い、マリオンの方へ顔を向けるのだが…。

背後で足音が止まり、立ち止まる気配がした。


「…クロくん?」


…はは、まさかな。


そんな声に反応して、期待した自分が振り返るのだ。

そこには少し大人びたスカイブルーの彼女が立っていた。


 

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