第41話 出会いと再会 改稿
ガレオン子爵邸
四重の城壁に囲まれた王都は、四つの区画に分かれている。
自給自足を担う外周部、国民が暮らす市街地、貴族が過ごす貴族街、そして王城と塔だ。
賢者の書に触れた俺は、自分の可能性に期待を膨らませていた。
だが、そんな俺は屋敷で足止めをくらっている。
理由は簡単で、屋敷の主人であるマリオンがいなかったのだ。
「勇者が来るわ」
そして、そんな一言と共に彼女は帰ってきたのである。
——勇者
塔で騒動の中心となっていた黒髪の少年だ。
彼はノース侯爵領の小さな村を領地とする男爵家の長男であった。
なぜ勇者が来るかと言えば、
「…お父様に彼の支援をお願いしてきたの」
応接間に向かって歩くマリオンが、ここ数日間、姿を消していた理由を打ち明ける。
「…へぇ」
そんな曖昧な返事しかできない俺を連れて、彼女は応接間の扉を開いた。
そこには黒髪の少年が立っていた。
まだ幼さを残した容姿ではあるが、その立ち居振る舞いからは、気品を感じる。
彼はマリオンと目が合うと、深々とお辞儀をした。
「この度はノース侯爵閣下から、多大なるご支援をいただきまして、ありがとうございます」
「ノース侯爵家として貴重な戦力ですから、当然の事ですわ」
マリオンは彼の前のソファに腰を下ろすと、座るように促した。
俺はマリオンの後ろへと立つ。
…なぜ連れて来られたのかはわからないが。
彼は俺の奴隷紋を見ても、表情を一切変えない。
従者として連れ歩くのは、自然な事なのだろうか。
「おかげさまで、魔の森に不足なく挑めそうです」
「あの森へ行くのね…確かにレベル40まで上げるなら最適だけど」
部屋に入ってきた女騎士が紅茶をテーブルの上に置くと、マリオンはカップを手に持った。
上品な仕草で、香りを楽しむように口をつける。
「もちろん、一人ではありません。護衛に騎士団と氷海の異名を持つ王宮魔導師まで、つけていただきました」
「エリー先生なら魔の森でレベル35まで鍛錬したそうだから、安心ですわね」
懐かしい名前を耳にするが、相変わらず俺は蚊帳の外だ。
その後も二人の会話は続くが、内容は社交辞令的なものだった。
それも女騎士が再び扉を開けた時に、終わりを迎える事になる。
「…王宮魔導師様が到着いたしました」
「…暇つぶし…」
そこには見覚えのあるローブ姿の女性の姿があった。
相変わらず気怠そうな表情を浮かべている。
黒髪の少年は立ち上がると、エリー様に向かい一礼する。
だが、彼女は眠たげな目でその姿を見ると、俺の方へ歩いてきた。
「…また会えた…」
そう呟いて、俺の頭に手を置く。
「こんなに早くお会いできるとは思いませんでした」
「…勇者を見に来た…」
そして何事もなかったかのように離れるのだ。
やはりこの人はよくわからない人だ。
彼女は勇者の方を向くと、
「…ステータス…」
ステータスを見せてと言いたいのだろうが、相変わらず言葉が足りない。
黒髪の少年は、高名な魔導師様に師事いただけるとはと、畏まっている。
そんなまどろっこしいやり取りを何度か繰り返し、二人は魔の森へと向かう準備をすると言い、屋敷を出て行ったのだった。
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