第23話 冒険者ギルド 改稿

——冒険者ギルド


その歴史は隊商宿より古く、多くの土地が魔物の跋扈ばっこする、未開の地だった頃まで遡ると言われている。


冒険者と呼ばれた者達は、その大地を駆け抜けていったのだ。

ある者は未知なる土地を探検したいと願ったかもしれない。

またある者は、魔物と戦いたいと考えただろう。


その冒険譚は、うたとして書物になり、今では人々の娯楽として語り継がれている。


そんな激動の時代。

冒険者が制圧した土地には、開拓民が移り住み始める事となる。

 

それは村と呼ばれるようになり、冒険者ギルドは新しい拠点を築く。

そして、彼らはまた未開の大地に挑むのだ。


そんな旅の途中、ある者は領主に、ある者は騎士に、開拓した村に定住する事で生涯を終える者もいたという。


…話を戻そう。

未開の大地が開拓され、村はやがて都市になり、国家が生まれる。

人類の生存圏が確立されたのだ。


そこに冒険者は?冒険者ギルドは?

掲示板に貼られた紙が、その答えを物語っていた。


外壁修理 1日 銅貨10枚

薬草取り 1束 銅貨3枚


笑ってしまうが、薬草は管理された城壁内の畑にあるらしい。

…まるで農夫だ。


透明竹加工 1日 銅貨8枚

小さな魔石1つ 銅貨3枚


魔石とは魔物の体内にある石だが、当然ながら城壁外の仕事である。

…命を賭けて銅貨三枚。


掲示板に目を走らせるが、都市の雑用ばかりである。

マスターが教師のように語る言葉に耳を傾けながら、スカイブルーの少女の呟きが脳裏に浮かぶ。


——冒険者ギルドって、身分がない人が行く所って聞いたよ?


…まさにその通り。

浮浪者一歩手前の根無し草が、その日を生きる為に、日銭を稼ぐ場所なのだ。


冒険者ランクなどない。

ただ依頼をこなし、信頼を築けたら、やがて住人になれるだけだ。


城壁外の魔物を退治しても、命をかけるに見合う金にはならない。

魔物退治は、騎士の仕事なのだ。


特にここは王都が近く、根無し草に金を出す程、治安維持に困ってはいないという事だろう。


また、拾ってきた魔物の残骸を出されても、どこの土地の魔物か見分けがつかない為、魔物退治の依頼があっても、騎士と一緒に行動するようだ。


「夢がないな…」


軽くなった葡萄酒を片手に、俺はため息をついた。


「お嬢ちゃんは、冒険者になりたかったのかい?」

「…そうかもしれませんね」


——冒険者ギルドの扉を開ける


そこは荒くれ者の巣窟。

真昼間だというのに、酒の匂いが漂う空間で騒ぐ男達。


俺はまた馬鹿騒ぎしてやがると眉をひそめるが、それを横目に掲示板に向かう。

強面の戦士達と肩を並べて、今日の獲物を探すのだ。


依頼を確認したら、冒険の始まりだ。

そして魔物を狩り、ギルドに戻って今日の稼ぎを受け取る。


宵越しの金は持たないとばかりに、夜の街へ繰り出せば、豪遊するその日暮らし。


——そんな冒険したかったな


飲み干した葡萄酒をカウンターに置き、掲示板へと振り返る。

…強面の戦士達はいない。


「まあ、嬢ちゃんの言う冒険者ギルドもあるのかもな」


そんな気休めの言葉を背中越しに、俺は酒場を出た。


——俺の夢は、まだ立ち止まっていた

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