第21話 内周城壁の外 改稿

交易都市クーヨン


南の商店街を抜けた先には、内周を取り囲む城壁があり、その城門の先には外周城壁まで広大な土地が広がっていた。


農地の脇道を少し外れると、丘の上には奴隷商人の館が立っている。

そして、南門を出た先には、いくつかの建物が並んでいた。


俺はそこで足を止めると、遠目に丘を眺めた後、行商人が行き交う道の先を独り見つめる。

爆裂魔法で、店を吹き飛ばした罰…ではなく、魔法の訓練なら外でしなさいと、許可を貰ったのだ。


店は現在、閉店改装中だ。

そして、俺達は月乃亭に宿泊している。


貴族並に身分確かな者しか泊まれないらしいが、ベッドが一緒な事も含めて、深く考えないようにしよう。

…あの人は色々とおかしいのだ。


——感覚を忘れないうちに、訓練しなさい


遠くに外周城門が見える。

草木が揺れると、そよ風が頬を掠めるのを感じた。


農作業に精を出していた市民達は手を止めてこちらを見ているが、そんな視線をよそに深呼吸をすると、俺は歩き出した。

商店街に通じる道の為、荷馬車に乗った行商人と何度かすれ違う。


彼らは、他の都市から仕入れた商品をここで売り、また次の旅路に向かうのだ。

道中で魔物や盗賊に襲われるリスクもあるから、情報や経験が必要だと、元行商人の雑貨屋さんが言っていた。


それでも需要と供給のギャップ予測をして、一攫千金を狙ったり、いつものルートで着実に資金を増やすらしい。


…いつかは自分の店をと、夢を胸に秘めて。


「ここは魔法の練習には不向きだな」


人通りが多すぎるのだ。

そんな事を考えながら、南門の前の建物に興味が移る。


「なんだろう?」


しばらく歩くと、草花がまばらにある小さな広場が見えてきた。

そこを中心に木造建築が並んでいるようだが、人の気配は少ないように見える。


俺はその中でも、一番大きな建物の前に来ると、庭の中を覗くと歩みを進めた。


中庭だろうか?

そこには木製の長椅子や、テーブルがあったりと休憩所のようだった。

 

中央に一本の大きな樹が生えており、木陰になっているせいか風も心地よく感じる。

そして、昼間から酒を飲み交わし、談笑する男達がいた。

 

身なりから商人のようだが、あまり柄が良いとは思えない。

そんな彼らの横を通り過ぎようとした時、声をかけられた。


「お嬢ちゃん、誰かに用かい?」

 

酒臭い息を撒き散らしながら話しかけてきた男を見て、眉をひそめる。

 

「いえ、初めて来たので、ここは何かなと」

「ここは隊商宿さ。そこを入れば酒場で、二階は宿だ」


男は顎で指し示すと、ニヤリと笑う。


——内周城壁の外に隊商宿と呼ばれる酒場や倉庫が一体となった…


…なるほど、これが月乃亭で聞いた隊商宿か。


「入って宜しいのでしょうか?」


男は俺の奴隷紋をチラリと見ると、鼻を鳴らす。


「ああ、隊商宿ってのは、誰でも利用していいんだよ。…金は必要だがな」


そう言って歯を見せて笑った。


「ありがとうございます」


男に礼を言い頭を下げると、そのまま建物の中に足を運ぶのだった。


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