平和な朝?

 ブーッブーッ……!

「う……うう……」

 ねむい……ねむいよ……まだ起きたくないよう。

 ブーッブーッブーッ!

「ううう……」

 頭の中までゆれるんじゃないかってくらいの振動しんどうで、わたしはいやいや起き上がった。

 スマホスマホ……。

 ようやく手に取ると、画面いっぱいに白いキツネのふてくされたような顔。

 画面に表示された時間は五時二十三分……ううう……まだ薄暗うすぐらいじゃん。

 昨日の大騒おおさわぎで、何だかすんごくつかれたし、スマホは気付いたらまた充電じゅうでんをヨジロウに食べられてて、まさかの二パーセントだったし、ほんとにもういろんな面でグッタリって感じだった。

 何とかお風呂を済ませて、最後の力をふりしぼってスマホを充電器じゅうでんきにさして、今ヨジロウに起こされるまで、それはもうぐっすりてた。

 でもまだねむいよう!

 ヨタヨタと階段をおりて、洗面所で顔を洗ってキッチンに行くと、今日もお母さんが油揚あぶらあげを焼いてくれてた。

「おはよう、最近早起きね!」

「う、うん、おはよう」

 本当はもっと寝たいです……とは言いづらい。

 あれっそう言えば、メロリって何食べるんだろ……ていうか、何か食べるかな?

「今日もまた、お部屋で食べるの?」

「あっうん……えーと」

「はい、じゃあこれ、油揚げとおにぎりね」

「あ……ありがとう」

「朝が苦手だったミントが、早起きして朝ごはんいっぱい食べてくれて、お母さんうれしい!」

 うっ! ごめんなさいお母さん……この油揚げは白キツネが食べます。


 胸がいたみつつも部屋にもどると、ヨジロウが待ってましたと言わんばかりに、キツネの姿すがたつくえの上に現れた。

「メロリは?」

 聞いてみても、ヨジロウはおかまいなしに油揚げを食べ始める。

「もう! おはようくらい言ったら?」

「もあおう」

 ヨジロウは、ほっぺにいっぱい油揚げをつめてそう言った。

 何て言ったかわかりませぇん。

 とりあえずヨジロウはそっとしておいて、スマホを確認した。

 とりあえず、充電は無事に終わってるみたいなので、充電器からはずす。

 ミントの葉っぱのアプリを立ち上げてみる。

 畑のあたりにメロリはいないので、家の方をタップ。

「あ、おはようメロリ!」

 メロリは、囲炉裏いろりの横に座って、にこにこしていた。あんまりかわいいので、メロリを指でそっとタップすると、メロリの上にハートマークがぴょんって飛び出してきた。

 ええ~かわいい~。

 メロリはトコトコ家から出ていった。あとを追いかけてスワイプしていくと、畑からスポンッて音を立てて、何かをひっこぬいた。

 白いだいこん? みたいなやっぱりかわいいイラストのアイテムを手に入れたらしいメロリは、ぴょこんとはねてハートマークをまきちらしながら、家に入っていった。

 追いかけて家をタップ。なんといろりでお料理をしていた。

 囲炉裏いろりのおなべにメロリがだいこんをぽいっとなげこむと、しゅうっと吸い込まれてぐつぐつと煮込にこまれてる。

 切ったり皮向いたりは、省略しょうりゃくされてるのかな?

 ふふ、普通にかわいいゲームみたい。


「ねえ、ヨジロウ、メロリ、お家でお料理してるよ。ヨジロウもあのお料理、食べれるの?」

「食べれるけど……だいこんより油揚げがいい」

「そっか。シキガミにも好ききらいはあるのね」

 そう言えば、ヨジロウがよくパズルゲームのアプリに入ってたのは、あれなんでだったんだろ?

「ねえねえ、ヨジロウはどうしてパズルのアプリに入ってたの?」

「あぷり?」

「この中で、いっつも同じアイコンに入っていってたじゃない」

「ああ。あの、同じ色のはこを集めてまとめてドッカンってするやつか」

 そう言ったヨジロウは、早くも最後の油揚げにかじりついた。

「うん、それ」

「あれ、おもしろかったから、退屈たいくつしのぎに遊んでたんだ。こわしてもこわしても次が出てくるから、おもしろかったんだが……もう出てこなくなっちまった」

「……え?」

「ごちそうさま~」

 そう言うと、ヨジロウはスマホの中に戻っていった。

「え? ゲームしてたってこと?」

 そう言えば、ヨジロウと知り合ってからゲームアプリやってなかった。

 パズルアプリを立ち上げてみると、ビックリ。

『おめでとうございます。現在配信げんざいはいしんされているステージはすべてクリア済です。今後のアップデートをお待ち下さい』だって!

 え? ええ~! 全部クリアしちゃったの~? わたしもやりたかったのに~?

 何とも言えない喪失感そうしつかんかかえて、わたしはしょんぼりとおにぎりをかじった。


 いつものようにバスに乗ると、もえちゃんがブンブンと手をふってきた。

「おはようミント!」

「おはよう!」

 いつのもようにもえちゃんの席の横に立つ。

「ミント、昨日はありがとう。ナツメくんのお父さんに今朝けさ会ったんだけど、前の、いつもの優しいおじさんにもどってたんだよ!」

「ほんと?」

「うん。やっぱり骨折こっせつが一瞬で治っちゃう! なんて奇跡きせきはなかったみたいで、まだギプスしてたけど、熱も下がったし痛みもひいてきたから、今日からお店開けられそうだって」

「よかった~!」

「ミントのおかげだよ! ありがとう」

「ううん、もえちゃんとナツメさんが一緒にいてくれたし。それに、一番がんばってくれたのは、ヨジロウとメロリだから」

 そう言って、スマホをとりだす。

 アプリを立ち上げて見てみると、ヨジロウはあいからわず屋根やねの上でまるくなっていて、メロリは畑をトコトコとかけまわって遊んでるみたいだった。

「ふふ、本当に不思議な子たちだね」

 もえちゃんは、楽しそうにわたしのスマホを見て言った。

「本当だね」

 もえちゃん、すっかり笑顔がもどって、本当によかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る