ゆうやけこやけでまた明日!

 画面を見ると、小さな女の子のキャラクターが、トコトコ歩いて、小さな家のイラストの中に入っていった。これ、多分メロリだよね?

 家をタップしてみると、中は畳の和風のお部屋で、真ん中に囲炉裏いろりがあって、メロリは一番奥でお布団に寝てた。ZZZって文字がういてる。

 かわいい……。


「なにこれかわいい~! シキガミのおうちになってるってこと?」

「ほんとだね、かわいい……!」

 わたしともえちゃんがキャッキャしてると、警察官さんの横に銃を置いたヨジロウが戻ってきた。

「あっヨジロウ! ヨジロウもキラキラやった方がいい?」

「あ? キラキラ? よくわからんけど、俺はもうつかれたから寝る!」

「ええええっ?」

 そう言うと、光の玉になってスマホに消えてしまった。

 画面を見ると、屋根の上で白いキツネが丸くなってた。こっちもZZZの文字……寝るの早くない?

「寝ちゃった……」

 雨上がりの河川公園かせんこうえんに残された、わたしともえちゃんとナツメさんの人間三人は、ちょっとの間、ぼうっと川を見た。

 川の流れてく先の空が、赤くなり始めるのが見えた。

 雨雲はすっかり小さくなって、見たことないくらいにきれいな、晴れた夕焼け空だった。


「とりあえず……帰るか」

 ナツメさんがポツリと言った。

「ですねえ」

「帰ろうか」

 わたしともえちゃんも、何だか力が抜けてしまった。

 ベンチの上に置いておいたかばんが、雨で濡れてしまっているのを三人して、げんなりしながら持ち上げる。

 土手に登っていくと、警察官さんがまだ横になってた。

「あれ……死んでないよな?」

「ちょっ! ナツメさんやめてくださいよ!」

 怖いこと言わないでよ!

 もえちゃんがタタタッと駆け寄って、しゃがみこんで警察官さんの顔をのぞきこむ。

「……いびきかいてる。寝てるんじゃないかな?」

「え、ほんと? よかった寝てるだけかあ」

 もえちゃんの言葉に安心したとき、警察官さんが寝返りをうって「うう~」とうなった。

 え? 起きる?

 もえちゃんが、目を見開いて、そうっと警察官さんから離れて、走り出した。

 え?

 ナツメさんも無言でダッシュしだした。

 陸上部。めっちゃ速い。あっという間に遊歩道ゆうほどうの終わりにたどり着いて、大きな道路に曲がる角を曲がろうとしてる。

 待って待って待って!

 もえちゃんがわたしに向かって、ブンブンと大きく手招てまねきしてる。

 待って待ってよ~!

 良心が「このまま放っておいていいの?」とうったえるのを必死に無視して、わたしは全力で走る。

 今さっきあったこと、説明してくれとか言われてもできないし! ごめんなさい!

 わたしたち、悪いことはしてないし!

 してないよね?

 とにかく、わたしたち三人は大慌てで逃げ出して、すぐに解散して、それぞれ急いで帰宅した。


 だから、気づかなかったんだよね。

 川原に、他にも人が、いたことに。

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