なかなおり
わたしは、どうしたいか。
わたしは、カワグマと、ううん、カッパさんと仲直りしたい。
スマホを握りしめた右手に、力が入る。
スマホが光って真っ黒だった画面に、また
それが全部おさまると同時に、画面が白く光った。
ヨジロウが後ろに立っていて、息をのむのがわかった。
わたしは、不思議とこころが落ち着いていて、こわくもないし、もう、悲しい気持ちも消えていた。
スマホの光が消えると、杏の花は、明るい
そっとアイコンにふれると、キラキラした小さなお星さまみたいな、光の欠片みたいなものが、スマホのライト部分から出てきて、カワグマを包んだ。
スマホの画面には、カワグマとはちがうアヤカシが映っていた。
カエルみたいな緑色の肌に、カメみたいな
「ごめんね。カッパさん、仲直り、しよう」
ようやく、声をしぼりだしたら、画面の中のカッパさんが、こくりとうなづいた。
そして、カワグマの体が白い光に包まれて、きゅうっと、ヨジロウがスマホに戻るときの光みたいに、小さな玉になった。
そして、光は少しずつ子供みたいな形になって、ぱちゃんって静かな水音をたてて、わたしの目の前に着地した。
光が消えた、その場に立っていたのは、まぎれもなくカッパさんだった。
動画で切り落とされてしまってた右腕も、元にもどったみたいで、揃った両手が涙があふれる、緑色の顔をおおった。
「オイラ……ひどいことして……ごめんなさい」
消え入りそうな声でカッパさんが言った。
わたしは思わず、カッパさんの手をにぎりしめた。
冷たくてモチモチしてた。
「ううん、わたしたち、人間こそ、ごめんなさい」
カッパさんは、わたしの言葉を聞くなり、うるうると目をうるませて、がまんしきれなくなったみたいに、大声でワンワンと泣き出した。
「ウワアアアアアン……ウワアアア……」
まるで、ちっちゃい子供が泣いてるみたいな泣き声だった。
カッパさんの泣き声に答えるみたいに、
「テメエ……ごめんなさいで済ませるわけねえだろうが!」
ヨジロウが
「こら! ヨジロウ! カッパさんだって……」
「うるせえバーカ! オイラ、キツネは
予想に反してカッパさんが涙と、くちばしに開いてる鼻穴? から鼻水をたらしながら、ヨジロウにむかって叫んだ。
っていうか、いま、姫さまって言った?
「オイラ、ミント姫さまの言うことなら聞くよ。ミント姫さまのシキガミになる。けど、何度もオイラに痛いことをしたキツネは
いーーーーだ! って、本当に子供みたいに叫んだカッパさんは、これがさっきまで
「え、ええと、じゃあとりあえず、ナツメさんにごめんなさいしようか?」
「ナツメ?」
「君が、この前カマをうばってケガをさせちゃった、おじさんの子供」
「う、うん。わかった」
カッパさんはしょんぼりして、わたしの手をきゅっとにぎり返してきた。
……ちょっとかわいい。
わたしはカッパさんの手をひいて、ナツメさんともえちゃんとメロリが待ってる階段に歩いて行った。
歩きだしてすぐ、カッパさんの足元ににカマと、警察官さんの
カマはまだしも、銃はさわるのもこわかったから助かった。
カッパさんを連れて行くと、ナツメさんが、
「ナツメさん、あの……」
何か言わなきゃと思ったわたしの服のすそを、メロリがひっぱって止めた。くちびるに人差し指をあてている。ここは静かにしていろってことかな?
「あの……オイラ……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい」
カッパさんは、おずおずそう言うと、川岸に上がって土下座をしようとした。
階段の上に膝をつこうとしたカッパさんの頭を、ナツメさんが
「いいよやめろよ!」
カッパさんのホッペが、ナツメさんの両手にはさまれて、なんだか変な顔になってる。あああ……。
「う、うう」
「たしかに父さんにケガさせたのは、許せねえけど……でも、お前、もうしないだろ? 絶対さ」
「え?」
「さっきあっちで、ごめんなさいって泣いてただろ……ほんとにもうしないんだったら、もういいよ。ただし、これから、お前がほんとにもう悪さしないか、俺がときどきここに来て、
「え……?」
「お前、キュウリ好きなんだろ? たまに持ってきてやるから、もう大人しくしてろよな」
「キュウリ……?」
カッパさんの目から、また涙がこぼれた。
カッパさんは今、きっと、初めてのお友達のことを思い出してるんだろうな。
カッパさんのこころが、暖かくなっていく感じが伝わってくる。
「はいはい! カッパさん! わたしとも友達になって! お願い!」
もえちゃんが突然身を乗り出して、キラキラした目で言った。
「ともだち?」
「うん!」
「ちょっと待てもえ、俺は別に友達になるつもりじゃ……」
「なつめ……もえ……ありがとう」
「!」
カッパさんが、涙目で、うれしそうに笑った。
ナツメさんも、ふっと力をぬいて、ちょっとだけ笑って、ようやくカッパさんの頭から手を離した。
カッパさんが、川岸に上がって、濡れたスカートをしぼっていたわたしのところに小走りでやってきた。
「ミント姫さま」
「ちょっと待って! 姫さま呼びやめて~!」
「じゃあ何て呼べば……」
「ミントでいいよ!」
「じゃあミントさま」
さまもいらないんだけどな……。
「オイラ、
「え?
ナツメさんにカマを
「シキガミは、
関所って……また歴史ワード出てきた。ヨジロウって、本当に昔の時代を生きてたのかな。実感がわかないけど、出てくる言葉は、歴史の教科書みたいだよね。
「でもわたし
「あるだろ、その
「あ、スマホか……」
つまり、カッパさんもヨジロウみたいにスマホに入れるってことか。でも、入らないで川にいたいってことね。
「ミントさま。もえと、なつめが、オイラと友達になってくれるって。オイラ、うれしい。だから、もえとなつめが暮らすこのさとのために、ここにいて川を守りたい。大昔に、オイラの初めての友達が言ってくれたんだ。オイラのこと、水神さまみたいだって。また、そう言ってもられるように、この川を守って、さとを守りたい」
「カッパさん……!」
なんだろう、うまく言えないんだけど、すごくうれしい……!
「もちろん! いいに決まってるよ! わたしも、キュウリもってくるね!」
わたしの返事を聞いたカッパさんは、見ているこっちもうれしくなっちゃうくらい、明るい笑顔をうかべた。
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