よわむしのカッパ

 オイラは弱虫よわむしのカッパだった。

 特技とくぎは、雨をふらすこと。

 好きなことは、人間の道具を集めること。

 オイラは弱虫だ。ハチだってこわいし、カマキリもこわい。

 魚をつかまえるのだって苦手だ。

 あいつら、ばっちゃばっちゃはねるだろ?

 びっくりするんだよなあ。

 人間はこんな弱虫のオイラより、ずっと弱いんだ。

 水の中でいきできないし、すぐおぼれちゃうし、かと言って、雨がふらなかったら、飲み水がなくなったり作物が育たなくなったりして、すぐ死んじまう。

 でも人間たちは、道具っていうすごいものを作っていろいろ乗り越えるだろ。

 川の流れを変えてみたり、水の流れを板で止めたり流したりしてみたり、こわい動物たちと戦う武器を作ったり。

 すごいよなあ。

 オイラ、人間が作るものが大好きなんだ。


 それに友達もできたんだ。

 人間の道具を探しに、さとに行ったとき、うっかり見つかっちゃったんだけど、全然逃げないしさわがなくて。変わったやつだった。

 初めての友達だったんだ。

 大好きだった。


 ああ、だからさあ。

 あの侍たちが許せなくって。

 許せなくって許せなくって。

 気付いたらオイラは、川があふれるくらい雨雲あまぐもを呼んでた。

 気付いたら、オイラは、アイツのさとを大水おおみずで流しちまってた。

 ああ、もうアイツの友達には戻れねえなあって思ったら、体がまっ黒になって、毛むくじゃらになって、こんなになっちまった。


 アヤカシは、不安定なもの。

 こころのゆれようで、姿かたちも、存在そんざいそのものも変わる。

 そう言ったのは、誰だっけ?

 さっき聞こえた泣き声、この声に、似てたなあ。

 でも、泣いてなかった。

 キリッとして、勇ましくて、どうにもあのときの侍たちに近いものを感じたっけなあ。

 こんなふうに、メソメソって、オイラみてえに弱っちくなくてさあ。

 おっかなかったなあ。

 こんなふうに、あやまりながら、泣いたりはしなかった。


 だれもかれも、オイラと一緒には泣いてくれなかった。

 アイツの親も、アイツを死なせたのはオイラだって、怒ってた。

 そのとおり。

 オイラが、悪いんだ。

 人間なんかにかかわったから。

 ごめんよう。

 オイラが、友達がほしいなんて、思ったから。

 ごめんよう、ゆるして……

 オイラを、ゆるして……

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