赤ずきんちゃんはもう泣かない
「ミント!」
わたしの顔を見て、もえちゃんが叫んだ。
「どうしたの? 泣いてる」
え? 泣いてる?
本当だ……ほっぺに
どうしたんだろう、わたし。
メロリの
思わず、スマホを胸に抱きしめて、
わたしの肩に、メロリの冷たくて
ああ。聞こえる。
何だろう、さっき、ヨジロウが迷ってる気がしたときと同じ感じ。
頭の中に……ううん、心に伝わる感じ。
カッパさんの悲しみ、苦しみが。
悲しい、
男の子を、あの子を助けられなかった。
たった一人の、初めての友達だったのに。
大好きだったのに。
自分が、侍の家にいたずらをしたりしたから。
あの家から、
自分のせいだ。
ごめん。ごめんなさい。
でも、だけど、刀を向けるなら、自分だけにすればいいじゃないか。
よりによって、あの子がいるときに来なくたっていいじゃないか。
それに、あの子が流されたときに、誰一人どうして飛び込まなかったんだ!
あの子じゃなくて、お前たちが……お前たち侍が流されれば良かったんだ!
ゆるさない。
ゆるさないぞ。人間め。
お前たちがにくい、にくいにくいにくいにくいにくいにくい……
そうかそうか。お前たち人間の、あの道具……良からぬことに使うんだろう?
なら、オイラが、その道具、使ってやる!
お前たちが切り落としたこの腕の代わりに使ってやる!
オイラを
最後には、全部、ぜええええんぶ! 流してやる……全部流してやる!!
「うっ……」
思わず声がもれた。
何て、悲しい心だろう。
こんなに悲しい気持ち、苦しい想い、わたしは知らない。
かわいそう……どうして、どうしてこんなことに。
「あなたは、ほんとうに、あんずひめに、にている」
メロリがそう言って、わたしのほっぺにてをそえた。
わたしが? 杏姫に?
メロリの涙が、いつのまにか止まってた。
「わたしは、もうなかなくていい。あなたがいれば……」
「え……?」
「なまえを、おしえて」
「ミ……ミント……
「ミント」
メロリは、わたしの名前を呼ぶと、にっこり笑った。
ちょっとだけピンク色になったほっぺが、ものすごいかわいい。
心が、少しだけ、
バシャアアアン!
一際大きな水音が響いた。
ハッとして川の方を見ると、カワグマが、左手でヨジロウの足をつかんでいた。
「ヨジロウ!」
考えるより先に走り出してた。
――ポツリ。
目に何か入って、一瞬だけ目を閉じる。
雨だ。
パタパタと大きな
ゴロゴロって雷が鳴って、一段と空が暗くなる。
あっという間に雨はどしゃぶりになって、わたしの耳はザアアアアって雨音でいっぱいになる。
制服が、髪が、ぬれてまとわりついてくるけど、そんなのかまってられない。
ようやく公園を抜けて、階段を駆け下りる。
ナツメさんともえちゃんも追いかけてくる。
危ないかもしれない。でも、どうしてだろう、わたしが行かなきゃいけない気がした。こわいよ。すごくこわい。でも、こわい気持ちよりも、行かなきゃいけないって気持ちが大きかった。
カワグマはヨジロウの右足を左手でつかんで、川の中に入り、バシャンバシャンと、右に左に、ヨジロウを川面に叩きつけだした。
「やめてえ!」
ヨジロウが死んじゃう!
『グルルルル』
カワグマがうなりながら、わたしに見せつけるみたいにヨジロウを持ち上げた。
逆さまに吊るし上げられたヨジロウは、右の二の腕あたりの
「ヨジロウを離してえ!」
スマホを握りしめて、
カワグマは、わたしの方なんて全然見もせずに、ヨジロウに向かって右手から生えた
「――っ!」
まさか、まさかそれで撃つつもり……!
「やめてえ!」
ナツメさんがわたしのとなりに追い付いてきた。バシャンバシャンって、川に入り込んでくる足音が聞こえる。
その背中に、メロリが
――パアン!
思わず目を閉じた。
こわくて目が開けられないでいると、すぐ横でナツメさんの声がした。
「すげえ……」
恐る恐る目を開けると、メロリが、ヨジロウとカワグマの間の空中に立っていた。
「え?」
まるで
目を凝らしてみると、シャボン玉みたいな虹色に光る透明な壁みたいなものが、メロリの前にあって、銃弾はそれに当たって止まってた。
「わたしは、もうなかない。ミントが、いるから」
「メロリ……!」
ヨジロウがかすれた声で言った。
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