呪いの赤ずきんちゃん現る?
パアン――
また、
音がするたびに、不安がふくらむ、嫌な音。
ヨジロウの動きが早すぎて、目で追いかけられないんだけど、でも、倒れたりしてないってことは、ちゃんと
「う、うう」
足元から声がしてハッとなって振り向く。忘れてた。警察官さん。
「だ、大丈夫ですか?」
恐る恐る声をかける。警察官さんはガクガク震えながら、川の中で水しぶきを上げて戦う、カワグマから目を離せないでいるみたいだった。
「あ、あれは何だい? あの、男の子は……そ、それより
うーん、混乱してるなあ。大人でもこういうときはパニックになるんだね。
「あれは、その……何ていうか……」
「あっ! そ、そうだ、君たち! 女の子を見なかったかい?」
わたしがモゴモゴ口ごもっていると、警察官さんはガバっと起き上がってわたしの腕をつかんだ。
「え? 女の子って?」
「さっき見たんだ。そこの土手で。泣きながら歩いてた、
「
――それって……
「浴衣、いちご
「
「い、いえ……」
「赤ずきんちゃんの……幽霊……」
もえちゃんが、わたしのすぐ後ろでつぶやいた。
もえちゃんを見上げると、もえちゃんはナツメさんの方を見てた。ナツメさんは、ものすごい怒ったような顔になってた。
「やっぱり、やっぱりアイツが関係してんのか?」
――くすん
今。何か聞こえた?
――ひっく、ぐす……
聞こえた。聞こえた、女の子が泣いてるような、声……
わたしが目を見開くと、ナツメさんともえちゃんもびくんってした。二人にも聞こえたんだ。
ほとんど三人同時に、土手の上の
そこには、泣き声の主が立っていた。
身長はわたしより全然小さい。だいたい五歳くらいの女の子。幼稚園児かなってくらいの見た目。
真っ赤なフード付きのケープからのぞく、真っ黒なおかっぱ頭。瞳はぼんやりと、
ピンク地に赤い実と緑色の葉っぱが鮮やかないちご模様の浴衣。ただし、下はミニスカートになってる。袖とえり、ミニスカートのすそは白いレースがたくさんついてて、女の子がトボトボ歩く度に、足元の
「あ……」
「赤ずきんちゃん!」
声も出ない様子のナツメさんの横で、もえちゃんが叫んだ。
「えっ? いた! あの子だ!」
警察官さんがそう言って立ち上がろうとした。
その警察官さんの横で、ナツメさんが地面を蹴る。
さすが陸上部! 速い。砂利が、土が、雑草が、ナツメさんに蹴りあげられて飛びちる。
「おまえ!」
ナツメさんが、赤ずきんちゃんの前に立った。
赤ずきんちゃんが、桃色の
その瞳からは、今もずっと涙がこぼれ続けてる。
ナツメさんは、ごくりと
何を言ったらいいか、わからないんだと思う。
『グオオオオオオオ!』
カワグマが
パアン! また銃の音。
赤ずきんちゃんが、突然、川に視線をうつした。
ナツメさんも、わたしたちも、つられてそっちを見る。
「よじろう」
「え?」
赤ずきんちゃんが、そう言った。
きれいな、神社のお守りについてる鈴みたいに、
「お前……お前、なんなんだよ!」
ナツメさんが
「君たち、友達なのかい?」
警察官さんがナツメさんに追いついて、
すると――
「……っ!」
赤ずきんちゃんが、ヨジロウの方を見たまま、警察官さんの目と鼻の先に、手のひらをかざした。
警察官さんは、一瞬おどろいてびくっと動いた後、ふらふらとよろけて、アスファルトの上に倒れ込んでしまった。
「なっ……何したんだよ、お前!」
ナツメさんが警察官さんを助け起こそうとしゃがんだ。
わたしはもえちゃんと顔を見合わせて、ふたり一緒にナツメさんと赤ずきんちゃんのいる
「ど、どうしたの?」
もえちゃんがナツメさんに声をかける。
「ねむってもらいました」
答えたのは、赤ずきんちゃんだった。
「よじろうが、おきたのですね」
赤ずきんちゃんはそう言うと、わたしの顔を見て、大きく目を見開いた。
「あんずひめ……?」
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