第14話
「リヒト、人間たちがこのディストピアに気付いたみたいだよ」
それは、まるでおまけのような口調で話された。
今は、ドロシーとリヒトで食後の休みを取っている時間帯である。
久しぶりの食事によって仕事のことを忘れ、気が抜けていたリヒトには重すぎる内容だった。
「ど、どうやってそんなことを知ったんだ……?」
「ボクが使役している死霊を、ディストピアの周辺に一匹だけ放っておいたんだよ。そうしたら、人間の姿を見たっていうからさ」
「そんな使い方もできるんだな……」
リヒトの心にあったのは、これからどうするかということではなく、ドロシーの索敵能力に対しての感心だ。
もし戦いになった時に、情報はとても大切な要因となってくる。
そんな情報という役割で、ここまで頼りになる存在はいないだろう。
「面倒なことになりそうだったから、攻撃はしないでおいたけど、結局ここに攻めてくるんじゃないかな。絶対ディストピアの存在は気付いたはずだし」
「その時はその時だ。とにかくありがとう――そうだ。フェイリスやロゼたちも、ドロシーの死霊に感謝してるらしいぞ」
「そうか。ボクの死霊が役立っているってのは嬉しいね。昔なんて、ろくな使い方をしていなかったからさ」
実際にディストピアは、ドロシーの死霊によってかなり支えられていた。
あのアリアも、優秀な死霊たちに満足そうだ。
一番恩恵を受けているロゼに至っては、余った時間で何をしたら良いか困惑しているほどである。
「それで、もし戦いになった時、ボクはどうしたら良いのかな? 一緒に戦った方が良い?」
「いや、ロゼたちがいるから、多分何もしなくて大丈夫だと思うよ」
「――あ、おったおった! 探したぞー、リヒトにドロシーよ」
リヒトとドロシーが話していると、宙に浮いたアリアがフワフワと近付いてきた。
どれだけの時間探していたのかは分からないが、この喜びようからして、かなり苦労したということは想像に難くない。
「は、初めまして、魔王さん」
「うむ! 話は聞いておる。これからもよろしく頼むぞ」
アリアとドロシーのファーストコンタクト。
この時点で、上司と部下の関係になっているようだ。
ドロシーも、魔王のカリスマ性に魅せられた一人なのかもしれない。
「アリア。もしかしたら、そのうち人間が攻めてくるかもしれないんだ」
「なんじゃと? まぁ、丁度いい。そろそろ暴れたいと思っておった頃じゃ」
アリアは指をポキポキと鳴らす。
特に焦っている様子も、物怖じしている様子もない。
むしろ、復活してから暇だった分、待ち遠しそうにしていた。
「――といっても、ロゼやイリスが全部倒してしまうから、儂まで回ってこんじゃろうな」
「……やっぱりロゼやイリスって強いのか? 話してみただけだと、普通の女の子って感じだったけど」
「イリスはティセと一緒でないとそこまでじゃが、ロゼは鬼のような強さじゃぞ。人間なら食料として全員食い潰すじゃろう」
ドロシーがブルっと震える。
ヴァンパイアに捕食される人間を想像してしまったのだろう。
この様子だと、過去にトラウマとして植え付けられているのかもしれない。
「ねぇ、リヒト。ロゼさんに許可を取ったら、ボクが人間の相手をしても良くなるのかな……?」
「ん? 大丈夫だと思うけど。どうしてだ?」
「いや、ヴァンパイアに殺される苦しさはボクも知ってるからさ。流石にそれは可哀想だなぁ……って」
何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がした。
この理由を聞いて、申し出を断れるほどリヒトは鬼ではない。
この後、ドロシーと一緒にロゼの元へ向かうことになる。
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